「フリーランス失業保険」が2018年度にスタートするって本当?

政府がフリーランスの失業や出産の際の所得補償となる団体保険の創設を提言したとの報道がありました。政府が進める「働き方改革」とも相まって、今後増える可能性のあるフリーランサーを支援する目的のようですが、保険として「本当にできるの?」と疑問が残ります。

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「フリーランス失業保険」ができるかも?

フリーランスとは、自営業や自由業ともいわれます。私の周りにも多いですが、システム開発やWEBサイト制作、翻訳者、編集者、カメラマン、ライターなど、複数の企業と契約をして業務を行う働き方を指します。日本でもすでに1000万人を超えているといわれ、今後「働き方改革」が進むにつれてさらに増えていくとみられます。

このフリーランスに関して2017年3月14日に次のような報道があり、私の周りでも大きな話題になりました。

フリーランスに失業保険 政府・損保が創設
対象1000万人

《要約》政府はフリーランスを支援するため、失業や出産の際に所得補償される団体保険の創設を提言。損害保険大手と商品を設計し、2018年度から民間で発売してもらう。今年発足した業界団体「フリーランス協会」に加入すれば、保険料が最大5割軽減される団体割引の仕組みとする。介護や子育てを理由に自宅で働く人も増えており、若年層や女性の多様な働き方を支える。

フリーランスのほとんどが個人事業主で、国民年金と国民健康保険で、雇用保険もなければ、傷病手当金も、産休・育休やその間の補償も、介護休暇・休業もその間の補償も全くありません。福利厚生面は薄く、自力で備えなくてはならない状況です。年金や退職金も、自分で国民年金基金や確定拠出年金、小規模企業共済などに加入をして備えないといけません。

フリーランスというわけではありませんが、今回の年金制度改革で、2019年4月から産前産後期の国民年金保険料が免除になることが決まったのが、ほんの一歩前進という感じでした。

そんな中、突然、「フリーランス失業保険」の話が出たわけです。政府が関わって新たな保険を作るということなのでしょうか? しかし、フリーランスの失業保険だなんて、そもそも本当に可能なのでしょうか? 失業状態かどうかはどうやって判断するのでしょう?……などなど、考えれば考えるほど疑問だけが募ります。

ちなみに、この報道によって、WEBサイト制作やライター、デザイナー、翻訳者などのフリーランサーに対して、サイト上で仕事の発注者との仲介サービスを行う某社の株が買われ、株価が大きく上昇したという動きも見られました。

「フリーランス失業保険」は幻?

フリーランスやパラレルワーク(副業)など、働き方が多様化する時代にあって、育児や介護などとも両立させやすいこともあって、フリーランスの働き方は注目されています。そのため、国が「働き方改革」の1つとしてかなり本腰を入れて新型の保険を作るつもりなのかと思った人は多いのではないでしょうか。

2018年度からスタートするなら、すでに動きがあってもおかしくはありません。いずれかの大手損保、あるいは1社が幹事会社となって複数社で「フリーランス失業保険」が作られる可能性もあります。

そこで、某大手損保の方に「何かご存知ないでしょうか」とストレートに聞いてみました。また、どのような商品設計がありうるかの可能性などについても。

すると、「水面下での動きだとわからないですが」としたうえで、「少なくとも当社での動きはない」との回答でした。思い切って商品設計の疑問をぶつけてみると、「フリーランス失業保険」という名称で想像されるような商品はモラルリスクが大きく難しいのではないかとの、個人的見解も。さらに最後に返ってきた言葉に驚いたのですが、「不確かですが、誤報では?という噂もあります」。

経済産業省の該当部署(産業人材政策室)の方にも話を聞いてみたところ、いくつか確認できたことがあります。

  • フリーランスを支援する補償の団体保険を提唱しているのは事実(「例えば、賠償責任保険や入院時などの所得補償保険など」と例を挙げていました)
  • 国が民間と一緒に新たな保険を作るような動きは特にない
  • 契約が打ち切られて収入がなくなったからといってそれを補償するような保険の提唱はしていない
  • 2018年度に創設するという話もない

報道では、「政府はフリーで働く人への支援を手厚くする。柱の1つが所得補償保険の創設で損保大手と専用の商品を開発し、契約がなくなった場合にも所得を得られるようにする」などとかなり具体的に書かれていましたが、少なくとも経済産業省の担当部署の方に話を伺った範囲では、それは確認できませんでした。

残念ながら、「フリーランス失業保険」は幻かもしれません。

フリーランス向け所得補償保険はできるかも?

ここからは、取材をした中で想像するフリーランス向け保険です。以下がパッケージ化された商品か、あるいは単品で選択できるか、ではないでしょうか。

  • 所得補償保険(病気やケガで働けないときに所定の日額が支払われる)
    →これをカスタマイズして、産休中なども補償されるものに?
    →病気やケガで入院・療養中に、所得がゼロでなくても補償する?
  • 賠償責任保険(業務上)

保険は一般に販売されるほか、「フリーランス協会」という団体から入ることで団体割引が得られることも報じられています。団体割引というメリットがあるなら、損保だけに限らず、生保分野の就業不能保険や医療保険、がん保険その他も候補に入ってもおかしくはないかもしれません。 

ただし、所得補償保険は自宅療養も含まれるものの、「仕事ができない状態」の認定が厳しかったりします。腕を骨折した方が、原稿は書けなくてもセミナーができて収入があったからと補償を受けられなかったという話も聞きます。ライターの方なら、腕が折れても、今どきは音声入力という方法もあります。ほかの職種でも、可能なら外注するという手段もあるでしょう。

フリーランスの“さが”として、意地でも収入をゼロにしないようにする傾向があります。仕事を断れば、次は来ない可能性も高いです。また、たとえ入院中でも働けないわけではありません。それを考えると、「入院したり手術を受けた月や医師による自宅療養の指示が出ている月は所得補償される」などが、現実的なラインなのではないでしょうか。

心の病でも補償されるようにするのか、役員報酬がある場合はどうなるのか等、細部が気になります。でも、利用しやすい商品が出るならそれはそれでありがたいことです。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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