マイナンバー制度が導入されて、まだ通知カードのままという方もいるのではないでしょうか? マイナンバーカードの普及と地域の活性化をめざして、政府は、仮想通貨技術(ブロックチェーン)の活用を検討していると発表しています。
仮想通貨技術(ブロックチェーン)は、ビットコインの根幹となる技術として注目されていますが、これらによって、私たちの生活にはどんな影響があるのでしょうか?
マイナンバーカードの地域活性化策で仮想通貨技術の活用検討 政府
《要約》地域経済の活性化とマイナンバーカードの普及を目的として、自治体が住民サービスの一環として発行している「自治体ポイント」に、JALやANA、NTTドコモやクレジットカード会社など12社のポイントを合算し、マイナンバーカードで利用できるように政府が施策を検討している。この際、仮想通貨の基盤技術である「ブロックチェーン」を導入し、ポイントの残高、移転や決済状況などの情報を電子的な情報として、安全かつ低コストで管理する方向だ。
ブロックチェーンは、ビットコインの根幹技術として2009年よりサービスが開始されている技術。従来のように一箇所のサーバーで集中管理するのではなく、複数のサーバーで分散して記録保存されるため、サーバーのダウンや、ハッキング攻撃にも強く、コストも低いと言われる。また暗号化されるので、セキュリティ上の問題もクリアされるという利点も注目されている。
ここでは、大きく次の3つのキーワード、マイナンバーカード、地域活性化、そして仮想通貨技術に関して、整理してみました。
マイナンバーカードとポイントの融合に違和感はありませんか?
まず、上記の記事を読んで、「マイナンバーカードの地域活性化策?」という点に、唐突な印象を受けた方もいるのではないでしょうか?
私自身も、少し前にやっとマイナンバーの通知カードを「マイナンバーカード」に変えて、確定申告などの電子申告で使った程度です。マイナンバーカードを地域活性のために、普段からあちこちで提示するという感覚はほとんどどありません。
そもそも、マイナンバー制度は、「行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現のための社会基盤と言われ、社会保障・税・災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関が保有する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるもの」とあります(政府広報オンラインより)。
この制度に、自治体の施策を通して発行されるポイントや、民間企業のポイントを合算させることで、マイナンバーカードの発行数を増やし、より活かしてもらおうというのが意図のようですが、次の点で、扱い方に注意が必要だと思います。
【目的や扱い方の相違】
マイナンバーカードや、自治体・民間のポイントは、両者の目的や扱い方が以下のように違います。
■マイナンバーカード
《目的》情報管理:自分の存在、本人確認を表し、公的な手続きの際に必要なもの。
《使い方》内向的で保守的:紛失してはいけないし、保管にも十分気を付けて扱うべき。
■自治体や民間企業が発行するポイント
《目的》生活活性化:生活をより充実させ豊かにするためにどんどん発行されて使われるもの。
《使い方》外交的で積極的:ポイントにアクセスできるカードなどは、毎日、持ち歩き、出し入れなども頻繁に行う。
こうした目的の違いを意識しないまま、与えられるままに、自分の情報管理や使い方を曖昧にしていると、思わぬ紛失やトラブルなどに巻き込まれかねません。何のためなのかをしっかり考えて、自分の情報を守るためにも、使い分けるという視点が大事だと思います。
地域活性化なら既に自治体のポイントが先行・多様化している
次に、2つ目のキーワード、地域活性化については、かなり前から自治体ごとに地域で取り組んでおり、その内容や運営などは様々な特徴があるのが現実です。
例えば、健康管理に関する行動やイベント参加に関して、ポイントを付与する制度を導入している自治体は、埼玉県、高知県、木更津市、上田市、横浜市など何十も挙げられます(以下参照)。
それぞれの自治体で、ポイント付与のしかたも違いますし、特典についても地元特産物のプレゼントが中心のところから、地元産業や商店への誘致などまで活用ルートは様々です。これらは、住民の生活に浸透し、地域の活性化に寄与するように、環境や特性を活かして運営されていると思いますし、目的や活用法が明確なら、技術面でブロックチェーンを導入し、更なる活かし方も出てくると思います。
《自治体のポイント制度の例》
埼玉県コバトン健康マイレージ(埼玉県)
https://kobaton-mileage.jp/portal2/service.html
高知家健康パスポート(高知県)
//www.health-pass.pref.kochi.lg.jp/
きさらづ健幸マイレージ(千葉県木更津市)
//www.city.kisarazu.lg.jp/12,40978,18,119.html
上田市健康づくりチャレンジポイント制度(長野県上田市)
//www.city.ueda.nagano.jp/kenko/kenko-fukushi/kenko/kenkotoshi/kenkochallenge.html
よこはまウォーキングポイント(神奈川県横浜市)
//enjoy-walking.city.yokohama.lg.jp/walkingpoint/
もし、マイナンバーカードで、自治体のポイントを管理するということになると、これら先行している施策のポイントとの調整も必要になってきます。仮に、それらの調整ができたとしても、実際にポイントの交換や利用などが複雑になり、使いづらくなることも懸念されます。また、カードに関する詐欺対策などもしっかりと施しておくことが重要でしょう。本来の地域の特性を活かすというメリットを損なうことなく進めていくべきなので、マイナンバーカードでの地域活性化はかなり時間を要するのではないでしょうか。
仮想通貨技術(ブロックチェーン)を取り入れるメリットは?
また、3つ目のキーワード、仮想通貨技術とは、最近、流行のブロックチェーンのことで、「分散型台帳」とも呼ばれています。2008年にサトシ・ナカモトと名乗る人物の論文によって発表され、仮想通貨ビットコインの根幹となる技術として脚光を浴び、最近は、ビットコインだけでなく、地域通貨や電子クーポン、登記や電子カルテ、シェアリングエコノミ-、流通、IoT(モノのインターネット)などへの応用が検討されています。経済産業省もこのブロックチェーンによる潜在的な経済効果を67兆円規模と試算しています。
今回のように、マイナンバーや地域活性化でブロックチェーンが検討されることが増えているのは、次のようなメリットがあるからと言えます。
- 記録された情報の改ざんが不可能なこと
- 分散して複数のコンピューターにより同時に管理されるので、災害などでもシステムがダウンしないこと
- 暗号技術により、個人情報に関するセキュリティや個人情報の漏えいのリスクが低いこと
- 蓄積された情報は、条件などに応じてデータ解析などにも活用しやすいこと
- 大規模のサーバーやバックアップシステムが不要なため、システムのコスト削減の効果が大きいこと
ちなみに、ブロックチェーン開発者に話を聞いてみると、これらのメリットから、まるで万能薬のようにブロックチェーン技術が捉えられてしまい、残念ながら、何のためにそれを使うのかという目的が不明瞭なことが多いそうです。データが改ざんできないと言っても、そもそもどのような情報をどのような切り口で、どのようなことのために取り続けるのかが曖昧では、宝の持ち腐れになりかねないと言えます。
地域通貨の中で仮想通貨技術(ブロックチェーン)の実証実験も始まっている
ここで、地域活性化を目的とした動きとして無視できないものに「地域通貨」があげられます。既に地域通貨は数多く存在し、2017年現在で600件~700件もあるそうです。その中でも、次のように、仮想通貨技術(ブロックチェーン)を活用した地域通貨の実証実験を始めているところもあります。
《ブロックチェーンを使った地域通貨の実証実験》
・茨城県かすみがうら市(2017、初の自治体による導入)
仮想通貨(地域ポイント=ブロックチェーン活用)による健康づくりと地方創生が目的。市は一般会計予算案に地域ポイント関連費1030万円を計上。うち300万円はポイントとして付与される。費用は、システム構築費約200万円、ブロックチェーン利用料を含めても500万円を上回る程度。
・飛騨信用組合(2017.5金融業界初、ブロックチェーンを活用した電子地域通貨)
飛騨信用組合の全職員約240人に1人当たり3万円分の地域通貨「さるぼぼコイン」を支給。高山市内の3カ所の商業施設でコインを使って飲食可能。飛騨信用組合は「将来は企業間のお金のやりとりにもコインを利用可能にし、その入出金の記録から信用度合を測り、担保や保証に頼らない融資も視野に入れている」とのこと。
・山陰合同銀行(2016.11)
職員60人に電子地域通貨を付与し、社員食堂で実証実験を実施。
世界共通の仮想通貨で世の中を賑わせたビットコインと異なり、地域通貨は、比較的小規模な地域で流通する通貨として、地方銀行などが発行し、地元の住民や観光客に使われながら発展するイメージといえるでしょう。人々が積極的に参加することで、地域通貨がポイントのように増えたり貯められたりするなど、今後、日常の行動や消費活動にも影響を及ぼし、地域の経済や流通にも活気をもたらすことが期待されています。
これらを成功させるためにも、どんな目的のためにブロックチェーンを使うのかを掘り下げていくことがとても重要です。具体的には、人々のどんな行動や価値の移転を記録していくのか、その扱う範囲や条件を定め、どのように集めて、データをどう活かしていくのか、それらに合わせて、ブロックチェーンも技術として進化しているのだそうです。
まさに進化の真最中の技術を使うことを考えると、仮想通貨やポイント機能は、最初は地域など小規模なネットワーク内で目的を明確にしてスタートし、そこでの成功事例を重ねながら広範囲へと広がっていくほうが、私たちの生活にも浸透しやすいのではないでしょうか。
大切なのは、自らの拠点でどのように生きたいのか?を明確にすること
今の状態は、インターネット創成期に似ていると言われます。
1990年代のワールドワイドウェブ(WWW)の登場とともに、インターネットが私たちの生活に一気に浸透したように、今、私たちは、インターネット上で移動する価値としてブロックチェーンに裏付けされた仮想通貨・地域通貨やポイント制度などが広がる初期段階にいると思います。
今後、ブロックチェーンの活用は、金融取引や登記などの記録にまで広がるでしょうし、記録される範囲や用途もさらに広がっていく可能性が大きいと思います。一度、記録されたら、改ざんできず、どんどん蓄積されていきます。それはある意味、怖い側面もありますが、私たちが健康的で経済活動にも積極的に関わるなど、社会や地域に貢献する活動を続けていくと、それらのデータが価値を生んで信用度を増し、発行されるポイントや仮想通貨・地域通貨が増えて豊かになるという効果も十分予想できます。
これから将来に向けて、私たちは自らの行動を何かに流されたり振り回されるのではなく、しっかりと自分らしい価値ある行動が記録されるように、ふるまっていくことが大事になってくるのではないでしょうか。
参考
- マイナンバーカードの地域活性化策で仮想通貨技術の活用検討 政府
//www.sankei.com/politics/news/170722/plt1707220008-n1.html
- 経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料
//www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428003/20160428003-1.pdf