4月から介護サービスの基準となる介護報酬が改定されます。団塊世代が75歳以上になる2025年に向け、すべての国民が適切な介護サービスを受けられるようにするのが目的です。
診療報酬改定のポイントは?
公的医療保険の診療報酬改定は2年ごと、介護報酬の改定は3年ごとに行われています。今年2018年は、この2つの改定が重なる6年に1度の年です。コラムのメインは介護報酬の改定ですが、診療報酬の改定も一部影響しますので、簡単に整理しておきます。
厚生労働省は、2025年の大介護時代に向けて住み慣れた地域で老後を送れる体制づくり(地域包括ケアシステム)を推進しており、その柱になるのが「かかりつけ医」です。かかりつけ医は、診療だけでなく健康相談や予防に取組むためのキーマンにもなります。
超高齢化の進展で肥大する医療費を抑えるという視点もあっての改定ですが、医療職の人件費などに充てられる診療報酬そのものは0.55%増となります。
診療報酬改定のポイントとしては、次のようなものが挙げられます。
介護報酬との同時改定であるため、「看取り」など介護との連携も重視されています。
2018年度の診療報酬改定の主なポイント
- 「かかりつけ医」の普及促進
(800円の初診料加算。通信機器を使った遠隔診療の報酬を上げ、夜間や休日も対応できるようにする) - 「患者10人に対して看護師1人」の病床の報酬を上げることでゆるやかに移行
現在は「患者7人に看護師1人」の病床の報酬が高め。 - 病床の再編で提供する医療の実績に応じて報酬が決まる仕組みへ
(今後はリハビリを通じて在宅復帰を目指す回復期病床の数が必要になるが、現状は急性期病床の方が多い。これを改善する) - 地域医療と大病院との役割分担
(紹介状なしで受診すると初診で5000円以上、再診で2500円以上の負担が発生する病院の規模が「500床以上」→「400床以上」に拡大。地方の中核病院も紹介料が必要になる。軽症の患者は地域の診療所に誘導する) - がん治療と仕事に両立を促進
- 薬価を平均7%引き下げ
(2021年度からは、2年に1回の薬価の改定を毎年行うことに) - 透析医療の報酬削減
(年1兆円規模でかかる透析治療の報酬も減額) - 「看取り」の報酬加算
(介護との連携。自宅での「看取り」に対する報酬を加算、特別養護老人ホームでの終末期医療の拡充などの措置も)
介護報酬の改定は?
介護保険は大きな財政的な課題を抱えています。介護費用は制度ができた2000年当初の3.6兆円から2017年度は3倍の10.8兆円に増加。2025年度はさらに増えて20兆円に達するとの推計もあります。介護保険を利用する人が増えるほど費用がかさむため、やむをえないことなのです。介護サービスを安定的に提供しつつ、右肩上がりに増える介護費用の伸びを抑えるという矛盾する課題に直面しているのです。
厚生労働省の「平成30年度介護報酬改定に関する審議報告の概要」を見ると、今回の介護報酬の改定の柱としては次の4点が挙げられています。
2018年度の介護報酬改定の主なポイント
- 地域包括ケアシステムの推進
(中重度の要介護者も含め、どこに住んでいても適切な医療・介護サービスを受けられる体制を整備) - 自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
- 多様な人材の確保と生産性の向上
(人材の有効活用・機能分化、ロボット技術等を用いた負担軽減、各種基準の緩和等を通じた効率化を推進) - 介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保
地域包括ケアシステムの推進
それぞれの内容をもう少し掘り下げてみましょう。
まず、「地域包括ケアシステムの推進」については、具体的には次のような内容が含まれています。ダイジェストにしたものです。
- 中重度の在宅要介護者や、居住系サービス利用者、特別養護老人ホーム入所者の医療ニーズへの対応
- 医療・介護の役割分担と連携の一層の推進
- 医療と介護の複合的ニーズに対応する介護医療院の創設
(現行の「療養機能強化型」と「転換老健」に相当する類型を設け、各種の転換支援・促進策を設ける) - ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保
- 認知症の人への対応の強化
(看護職員を手厚く配置しているグループホームに対する評価を設けるなど) - 地域共生社会の実現に向けた取組の推進
(障害福祉の指定を受けた事業所について、介護保険の訪問介護、通所介護、短期入所生活介護の指定を受ける場合の基準の特例を設ける。療養通所介護事業所の定員数を引き上げる)
医療・介護の連携が図られていくことや、「介護医療院」が作られることが大きな特徴です。
自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
2つ目の「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現」に関しては次のような項目が含まれます。
- リハビリに関する医師の関与の強化
- リハビリにおけるアウトカム評価の拡充
(通所リハビリに設けられている事業所評価加算や、生活行為の向上のためのリハビリに関する加算、目標達成できない場合の減算を、介護予防通所リハビリにも設ける) - 外部のリハビリ専門職等との連携の推進を含む訪問介護等の自立支援・重度化防止の推進
- 通所介護への心身機能の維持に係るアウトカム評価の導入
(ADL(日常生活動作)の維持や改善の度合いが一定水準を超えた通所介護事業所を評価) - 褥瘡の発生予防のための管理や排泄に介護を要する利用者への支援に対する評価の新設
(特養等の入所者の褥瘡(床ずれ)発生を予防するため、関連項目について、定期的な評価を実施) - 身体的拘束等の適正化の推進
(義務違反の施設の基本報酬を減額)
通所リハビリや介護予防通所リハビリ事業所に、目標達成の加算や非達成時の減算が適用されることになります。特養等の入所者の褥瘡(床ずれ)発生を予防するため、定期的な評価が行われます。また、身体拘束に関して、違反すると基本報酬の減額が行われるなど厳しい対処がなされます。
多様な人材の確保と生産性の向上
3点目の「多様な人材の確保と生産性の向上」については、次のような内容が含まれます。
- 生活援助の担い手の拡大
(介護福祉士等は身体介護を中心に担うとともに、生活援助については新研修を創設して質を担保する) - 介護ロボットの活用の促進
(特養等の夜勤など) - 定期巡回型サービスのオペレーターの専任要件等の緩和
(夜間・早朝だけでなく日中も認める) - ICTを活用したリハビリ会議への参加
(関係者間でリハビリの内容等について話し合うとともに、医師が利用者や家族に内容を説明する会議) - 地域密着型サービスの運営推進会議等の開催方法
家事や食事作りなどをする生活援助は資格が緩和されるようです。なお、特養等の夜勤の見守りなどに介護ロボットの活用等も含まれています。
介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保
4点目は、介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保。これいに関しては、次のような内容が含まれます。
- 福祉用具貸与の価格の上限設定等
(平成30年10月より、全国平均貸与価格の公表や上限設定を行う。価格帯の異なる複数商品の提示を義務づける)。 - 集合住宅居住者への訪問介護等に関する減算や区分支給限度基準額の計算方法の見直し等
(過剰な訪問介護を減らすため、集合住宅で隣接の事業所からのサービスを受ける人の利用回数を減らす等)。 - サービス提供内容を踏まえた訪問看護の報酬体系の見直し
(訪問看護ステーションからのリハビリ専門職の訪問について、看護職員との連携が確保できる仕組みを導入するとともに、基本サービス費を見直す) - 通所介護の基本報酬のサービス提供時間区分の見直し等
(基本報酬について1時間ごとの設定に見直す) - 長時間の通所リハビリの基本報酬の見直し
(3時間以上の通所リハビリの基本報酬について、同じ時間、同等規模の事業所で通所介護を提供した場合の基本報酬との均衡を考慮しつつ見直す)
過剰な訪問介護を減らすため、集合住宅で隣接の事業所からのサービスを受ける人の利用回数を減らす等も行われます。また、訪問看護の報酬体系が見直されるほか、通所介護の基本報酬のサービス提供時間が、2時間単位だったものが1時間単位に見直されます。
診療報酬・介護報酬の改正から見えてくるもの
今回の診療報酬・介護報酬の改正から見えてくるものは、明らかに、介護は在宅を基本とした方向へと向かっているということです。「住み慣れた地域で老後を送れる体制づくり」(地域包括ケアシステム)を推進していくことでしか、介護施設不足に対処することはできません。
在宅介護は、基本は家族の手を借りる介護です。「介護の社会化」を目指して作られた介護保険制度でしたが、家族介護を柱とする在宅介護に戻ってきたような印象を受けているのは私だけでしょうか。結局、ある程度資金がないと介護保険料を負担していても利用しにくく、家族介護になってしまいます。
また、大介護時代は目前に迫っていて、2025年までに各地に地域包括ケアシステムが十分に広がっていくのでしょうか。人手不足の中、医療・介護の人材が確保できるのかも心配です。
描かれている青写真通りにいくのか、これから介護を支える身としても、いずれ介護を受ける身としても、不安がいっぱいです。今回の診療報酬・介護報酬の改定で、少しでもいい形に変化することを祈るばかりです。
参考
- 平成30年度介護報酬改定に関する審議報告
//www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000188370.html