共同通信社が47都道府県の介護保険事業支援計画についてまとめたところ、介護を必要とする人の数は2025年度には現在の122%となり、約770万人に達すると推定されることがわかりました。
要介護高齢者770万人に 25年度、首都圏で急増
《抜粋》六十五歳以上のうち介護が必要になる人が、七年後の二〇二五年度には全国で現在より約百四十一万人増え、一・二二倍の約七百七十万人と推計されることが、四十七都道府県の介護保険事業支援計画を基にした共同通信の集計で二十日、分かった。
二五年は団塊の世代が全員七十五歳以上になり、社会保障費の大幅増が予想されることから「二〇二五年問題」と呼ばれる。介護保険も要介護者数の増加で費用が膨らみ、財源確保策が課題となるほか、サービスの整備や担い手不足への対策が求められそうだ。
少子高齢化が進行中の日本人のライフプランにおいて「親の介護問題」は「自分の老後対策」と同じくらいに重要であろうと思います。しかしどのような問題が現出するかはそれこそ千差万別、ケースバイケースであり、具体的な対策はその時になって随時対応するしかありません。
親の高齢化に伴っていざという時が訪れる前に知っておきたいこと、準備しておきたいことについて、私自身の経験も踏まえながら紹介します(※詳細な経験談は私個人のブログで書いておりますので、ご興味のある方はぜひお読みください。)
介護保険の認定~思った以上にハードルは高いかもしれない
もしも親の介護が必要になったら保険が面倒見てくれるのだろう、という単純な解釈はとても危険です。もともと介護保険とは国の医療制度の財政逼迫などを受けて、高齢者の長期入院を減らして、できる限り自宅での自立生活を促すことを目的としています。
さらに、費用負担の一部を国から地方自治体に移すことも大きな制度主旨だと思われます。ですから介護の認定に際しては「この家庭環境なら、家族の協力で何とか自立できそうだ」という判断に傾く傾向があることは否めません。また厳しい財政状態の各自治体では、保険者としての費用負担が発生する介護認定については、どうしても慎重にならざるを得ないというのが実情なのでしょう。
介護度の認定は様々な規定と基準に基づいているとはいえ、実際はその認定者によって、あるいは自治体によって大きな差異が出る可能性はあるのです。フィギュアスケート競技の点数制にも似たところがあって「その時の印象」の影響も少なくないという実態も知っておくべきだろうと思います。
現に私の母は、認知症確定診断後、実家に来た認定調査員との面談で、「毎日、掃除洗濯、炊事、入浴をきちんとしています」「時々息子が手伝ってくれますが、買い物やその他一切はほとんど自分で出来ます」ときっぱりと答えた結果、それまでの「要支援1」のままでした(母の横でのけ反る思いで聞いていました!)。
頼りになる「地域包括支援センター」という存在
介護認定のことを少しでも知っておくために、比較的容易に実行できる対策の一つとして紹介したいのは「地域包括支援センター」の訪問です。
主に市町村等の各自治体が設置している高齢者の生活サポート拠点で、各センターには、保健師、看護師や社会福祉士、ケアマネジャーが配置。介護予防や日々の暮らしをサポートすることを主な役割としているところです。高齢者の暮らしのサポートのために、介護だけでなく福祉、健康、医療など様々な分野から総合的に高齢者とその家族を支える機関と言えます。高齢者本人のみならず、家族の悩みや相談もうけてくれる体制をなっています。
私は介護保険の申請をする以前2年ほど前から数回、親の地元のセンターで事前の相談をしていましたが、このことが後に介護保険を利用する段になって大いに役立ったのは間違いありません。一度は訪ねておくことを推奨します。
住環境を見つめ直す
特に足腰の病気がなくても、高齢になれば筋骨の衰え、歩行姿勢の偏りやバランス感覚の衰えなど、色々な要因から「転倒リスク」が高まります。転倒→骨折→長期入院→筋力低下→転倒リスク増大という悪循環に陥る可能性が年とともに高まるでしょう。階段のみならず、部屋の境目の段差や、玄関の出入り、滑りやすい風呂場、着替え中にバランスを崩すなど、若いうちには想像もできなかったような状況で簡単に転んでしまうこともあるのです。
実家の住環境を一度冷静に見つめてみることが転倒リスクなどの軽減に確実につながります。これについても、前出の包括支援センターでの事前相談は有効です。(相談に費用は掛かりません)
親のお金事情を知ること~流動性の確保が重要
突然の緊急費用(住宅改修や施設入居費など)に対応するため、現金を使いやすくしてことが大切です。私は両親の定期預金を普通預金に移しておいたおかげで、銀行によってはかなり煩雑になるであろう手続きを回避することができました。口座名義人本人が自分では引き出せないような状況になる前に、親のお金事情を知っておく必要性を実感しました。
認知症などが進んでくると、預金通帳の保管場所を忘れたり、不安感から不要不急の多額の現金を手元に置くようになったり、それを紛失したり、お金を盗まれたとの妄想を抱いたりということが起きてくるかも知れません。また、情報不足や判断力の低下もあって無用な高額な買い物をしてしまうこともあり得ます。
ですから、現金や預金通帳、カード、印鑑などの保管場所や金額を把握しておくことや、流動性を確保することはとても重要です。ただし、お金の問題は親子同士、兄弟同士の意見相違などもあり得ますので強引、乱暴なやり方は禁物であり、家族の信頼関係が大前提となります。そうでなければ、事態が悪化した段階で非常に厄介な状況を生んでしまうことになりかねません。
日常生活に潜む様々なリスクを知っておく
思わぬ場面で転倒するリスクなど、高齢の親には普通の暮らしの中にも多くのリスクが潜んでいます。
- 必要な薬をきちんと服用しているか
- 身体をきちんと洗えて清潔を保てているか
- 細菌繁殖をもたらさぬよう口腔ケアがきちんとできているか
- 尿漏れにも気づかないままでいることはないか
- 栄養バランスの取れた食事ができるか、塩分など取り過ぎはないか
- ゴミの分別やゴミ出しルールを守れているか
- 火の始末やガス器具の管理ができているか
- 詐欺や押し売りの被害に合っていないか
このような日常生活の実態を把握することが、思わぬ事故や急病のリスクを軽減します。自分が幼かったころと逆転した立場で、子どもが親に向かってなんだかんだとうるさく言うことには、子にも親にも大いに抵抗があるはずです。お金の問題同様に信頼関係の確保が必須だと思います。
しかし、何となくこれを先送りして、まだそこまでしなくても良いだろう……と思っているうちに親の老化が激烈に進んでいるかもしれません。触れたくない、言い出せない気持ちがあるでしょうが、親の財産の相続対策と介護準備対策は「誰が言い出すか」問題の最たる分野です。誰も言い出せないうちに、困ったことになってしまうことが実際に多いのです。
認知症への対応の準備を
「物忘れがひどい」という状態と「認知症かも」の境目の判定ははなかなか難しいのですが「忘れてしまっている」ことを自覚している段階なら、まだそれほど日常に災いは起こりにくいと言えそうです。忘れていること自体を忘れてしまう状態が日常的になり、生活に支障が出始める前に、認知症の診察を受けるのが良いと思います。しかし皆さんは実際にお母さんお父さんに「認知症の検査を受けましょう」と提言できるでしょうか?
最近の認知症専門の診療所や診療科は「物忘れ外来」という表現を用いるところも多いようです。以前のような「痴ほう症」などの表現が無くなって「認知症」と言われるようになっていても、やはり「自身の認知症」についてはかなりの抵抗感があるはずですから、この点は良く意識しておくべきでしょう。
自分の病変を自覚できないことが認知症患者の特徴のひとつなのですから、家族などが気配りしてうまく診察、治療に向かうようにするしかありません。また、じわじわと進行しているかもしれない親の認知症の進行を遅らせるために、できることはあります。
- 他者とのコミュニケーションの継続維持を促す
- 何かを作ること、人のために何かをすること、他者との会話の機会を確保する
- 孫などとの接触機会をもつ、何か共通の楽しみをもって外に連れ出す。
親ばかりではなく自分自身にも起こりえることですから「認知症の基礎知識」の書籍の一冊くらいは読んでおいても良いのではないでしょうか。
老後対策の前に備えておくべき「親の介護」
健康な人は日ごろから入院や手術の実態、医療制度の仕組みを知ることは殆ど無いでしょう。自分や身内が病気やケガで療養することになって初めて、それらを知ることになるのが現実です。
介護保険や諸制度についても同じことが言えますので、よほどのことがない限り現役世代が親の介護について考えることはないと思います。しかし自分の老後が訪れる以前に「親の介護」問題が発生することは誰にも起こりえるのです。
将来のイザという時を想定して、一応の準備をしておくのがライフプランの目的です。ご自身の老後対策と共に「親の介護」対策を一歩だけでも初めておくことをお勧めします。
参考
- 要介護高齢者770万人に 25年度、首都圏で急増
//www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201805/CK2018052102000114.html