認知症の本人や家族を支える保険が初登場!

2018年10月に東京海上日動火災保険株式会社より、認知症の本人と家族を支える保険「認知症安心プラン」が発売されます。

東京海上日動火災保険は、「公益社団法人認知症の人と家族の会」(以下家族の会)と高齢者の見守り支援に実績のある「一般社団法人セーフティネットリンケージ」(以下SNL)と連携して開発した「認知症安心プラン」を2018年10月より販売します。業界初となる認知症の方とその家族のための専用保険です。

認知症は、物忘れやひとり歩きで道に迷うなど、初期には家族でも気づきにくく、介護の負担が長期化する可能性も大きい症状です。認知症から本人と家族の生活を守るために保険で何ができるのか、「認知症安心プラン」やその他の認知症に備える保険で考えてみましょう。

目次

認知症保険が注目される社会的背景

日本の高齢化は今後も進み、2025年には全人口に対する65歳以上の人口は3割に達すると推計されています。※1 65歳以上の高齢者のうち認知症患者数は2012年の約462万人から2025年には高齢者の5人に1人の約700万人に増えると言われています。また、認知症予備軍ともいえる正常と認知症の中間の人(以下MCI)もあわせると、2012年時点で約862万人、2025年には約1,300万人と予想されます。※2 MCIを含めると日本人の10人に1人は何らかの認知症の症状を抱えることになり、社会の中での認知症の方との共存は必須です。

認知症患者数

認知症の高齢者が増えれば、家族の見守りや介護の負担も増え、身体介護に比べ介護期間も長期化する傾向があります。

生命保険文化センターが過去3年間に介護経験がある人へのアンケート調査の結果では、介護を行った平均の期間は4年11ヶ月でした。これに対し家族の会の調査では、平均の介護年数は6~7年となっており、6人に1人は10年以上介護を続けているという結果になっています。

※1国立社会保障・人口問題研究所の将来推計による
※2高齢労働省オレンジプランより推計

「認知症安心プラン」で備えられること

認知機能が衰えても足腰が丈夫であれば、ひとりで歩き回ることもできれば、電車に乗ったり中には車を運転する人もいます。2017年度の警察庁の調べでは、認知症または認知症が疑われる方の行方不明者は、2013年の10,322人から2017年には15,863人と約1.5倍に増えています。

認知症行方不明者数

認知症の人がひとりで外に出ることで本人が事故にあったり、逆に人を傷つけてしまう可能性もあります。場合によっては多額な損害賠償の責任を負ってしまうこともあります。

2007年に91歳の認知症の男性が電車にはねられて死亡した事故では、当初家族の監督責任が問われ、第1審ではJR東海に対し720万円の損害賠償が認められました。その後最高裁では逆転し家族の監督責任は最終的には問われませんでしたが、それまでの長い期間家族は自分たちが目を離したことで家族が亡くなってしまった悲しみと後悔、経済的なダメージの両方を背負ってしまったことになります。

また、認知症が疑われる方が車を運転して人をはねて死傷者が出てしまった事故や、高速道路を逆走して大事故を起こしてしまったりと、高齢者や認知症患者がかかわる事故も増加しています。

こうした事故から本人や家族を救うために、また、今の状況でできるだけ自分らしい生活を送りながら、少しでも安心して生き生きと生活してもらうために開発されたのが「認知症安心プラン」です。

  • 認知症になった方がひとり歩きをして行方不明となることへの不安
  • 認知症の方が他者を傷つけてしまう不安
  • 認知症の方本人がケガをするリスク

この3つの不安を軽減する補償内容となっています。

■認知症安心プランの概要
項目内容
保険の対象40歳以上の認知症の方およびそのご家族 「認知症」の診断を受けた方・認知機能の低下などにより「道に迷って家に帰ってこられない」等の症状がある方
補償内容(1)行方不明時の捜索費用(1事故30万円、保険期間を通じて100万円を限度)
(2)個人賠償責任保険(1事故国内・国外1億円ずつ)他人へのケガや財物を壊すなど法的損害賠償に備える
(3)被害者死亡時の見舞金(15万円)けがをさせた方が死亡した場合
(4)交通事故等によるけがの補償(認知症の方が死亡50万円、後遺障害2~50万円
(5)捜索支援サービス「緊急連絡ステッカー」の提供とSNLが提供する「捜索支援アプリ」利用
保険料1,300円/月(契約条件により異なる場合有)
販売時期2018年10月~

2018年7月24日東京海上日動プレスリリースより

認知症保険は、一定の状態になったら一時金をもらえるタイプ、年金で受け取るタイプが一般的です。しかし、「認知症安心プラン」は、家族が行方不明になった時、事故の加害者、被害者になってしまった時に限定して、月額保険料1,300円という比較的安価な保険料で認知症の本人や家族の不安に備えます。

また、将来の認知症に備えるのではなく、今認知症で困っている本人やご家族が加入できる保険です。「緊急連絡ステッカー」や「捜索支援アプリ」など事故を未然に防ぐための支援サービスがあるのも安心です。

他社の動き

ここまで、「認知症安心プラン」についてご説明をしましたが、認知症に備える保険は生命保険会社や損害保険会社、少額短期保険会社などから様々発売され始めています。「認知症安心プラン」以外の認知症にかかわる保険の一部をリストアップしてみましたので参考にしてください。

損保ジャパン日本興亜ひまわり生命
「リンククロス笑顔を守る認知症保険」
・10月発売のため不明(限定告知型)
・MCI(軽度認知症)や認知症を一時金で保障
・骨折の治療や事故による死亡を保障
・特約:(1)公的介護保険要介護1以上で一時金(2)要介護3以上で年金(3)三大疾病で保険料払い込み免除
セント・プラス少額短期保険※
「認知症のささえ(認知症診断一時金)」
・認知症ではない40歳から90歳の方
・認知症以外の要介護認定は可
・器質性認知症※に該当し見当識障害が90日以上継続した時に一時金が支払われる
・単独加入は80万円、60万円コース
・特約で付加できる20万円コースもあり
・月額163円~4,517円(年齢、性別、コースにより異なる)
リボン少額短期保険※
「リボン認知症保険」
・認知症になってからも家族が契約者で加入可
・認知症の診断なしでも加入可
・個人賠償責任保険
・補償プラン500万円、1,000万円・法律上の損害賠償金、損害防止費用、請求権の保全、行使手続き費用、緊急措置費用、訴訟費用
・月額1,700円
太陽生命
「ひまわり認知症治療保険」
・20歳から85歳まで。健康告知あり(基準緩和型)
・認知症発症前のみ加入可
・器質性認知症※診断確定後見識障害が180日以上継続した時に一時金(300万円)が支払われる
・7大疾病、女性疾病、骨折に対する保障とセットプランになっている
・年齢、性別、コースにより異なる保険期間10年、認知症一時金300万円ほか、60歳女性4,482円等
朝日生命
「あんしん介護認知症保険」
・40歳から75歳まで。健康告知あり(標準体型)
・健康体の人が加入可
・器質性認知症※診断確定+日常生活自立度判定基準ランクⅢ以上かつ公的介護保険要介護1以上で一時金または年金
・認知症保障のみに特化した保険
・一時金または年金タイプ
・年齢、性別、コースにより異なる
・保険期間終身、介護一時金100万円、60歳女性1,392円等

各社HPより筆者作成(詳細は各保険会社にご確認ください)

※器質性認知症とはアルツハイマー型、レビー小体型、虚血性、前頭側頭葉型認知症など脳血管障害や脳の組織の変化により発症する認知症のこと

※少額短期保険とは保険業のうち、保険金額が少額、保険期間1年(保障内容により2年)以内の保険で保障性商品の引受のみを行う事業会社です。詳しくは一般社団法人日本少額短期保険協会ホームパージをご覧ください。

//www.shougakutanki.jp/general/index.html

ひまわり生命のリンククロス認知症保険は、10月発売の商品で詳細はまだわかりませんが、認知症予備軍とも言われるMCI(軽度認知症)でも保障されるのが業界初ということです。

セント・プラス少額短期保険は、認知症に該当してから90日を経過すると最高80万円まで一時金が支払われます。

リボン認知症保険は認知症が原因で起こった法的な損害賠償責任などを補償します。一般の個人賠償責任保険でも補償される商品もありますが、保険会社によっては認知症を原因とすると保険金が出ないタイプや、同じ保険会社でも加入した時期により補償されない場合もあります。加入中の個人賠償責任保険の補償内容を確認しておきましょう。

太陽生命は認知症保険をはじめて発売した会社です。認知症に該当してから180日経過後に一時金が支払われます。7大疾病や女性疾病保障とセットになっているため保険料は多少高めです。

朝日生命は一時金と年金で受け取るタイプがあり、その組み合わせも可能です。どちらも健康告知があり、将来の認知症に備える保険です。

まとめ

軽度認知症を含めれば10人に1人が認知症の高齢者という時代です。認知機能が衰えてもすぐに亡くなるわけではなく、5年、10年と生きていかなくてはなりません。自分だけは大丈夫、ということはありません。自分も将来認知機能が衰えても社会の中で生きていくのだという意識を持って、認知症の本人や家族を見守っていくことが大切です。

ただし、いくら社会の見守りがあったとしても、本人の危険やご家族の不安や負担はすべてなくなるわけではありません。自分と異なる他者にも寛容な社会を作るとともに、いざトラブルが発生した時、せめて経済的な負担だけでも軽減できる保険は、少しでも本人や家族の安心につながるのではないでしょうか。

「認知症安心プラン」は、認知症の本人と家族を「行方不明」「個人賠償責任」「自身のケガ」という損害保険の目線で守る保険です。今後も認知症の本人とご家族の声によく耳を傾けた様々なタイプの商品が開発されることを望みます。

参考

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この記事を書いた人

有限会社ヒューマン・マエストロ取締役。大学卒業後、地方銀行にて融資業務担当。結婚、出産後7年間の子育て専業主婦。その後、住宅販売、損保会社、都市銀行の住宅ローン窓口を経て独立。現在は中央線を中心に活動する女性FPグループ「なでしこFPサロン」のメンバーとともに、さまざまな専門分野を持つFP・士業と連携しながら、お客様の悩みをワンストップで解決することを目指している。身近なお金の問題に役立つ講演・執筆多数。

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