2月に入り、もうそろそろ花粉症が気になる時期になってきました。今春のスギやヒノキなどの花粉飛散量は、全国平均で昨年の4倍を超える見込みだとか。
例年、早めに予防せねばと思いながらも、つい日々の忙しさにかまけて対策を忘れ、症状が悪化してから、慌てて病院やドラッグストアに駆け込む人も多いのではないでしょうか?(かくいう筆者もそのひとり)
薬局などで、鼻炎内服薬や点鼻薬、花粉目薬のお薬を一揃い購入すると、その費用もばかになりません。とはいえ、税金の還付が受けられる医療費控除の対象になるには、1年間に医療費や医薬品購入にかかった費用が10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の場合、総所得金額等5%の金額)を超える必要があります。
「薬局などで薬は買うけど、なかなか10万円は超えないなあ」という人も、今年からは、税金が戻ってくるかもしれません。
今年1月から、そんな新しい制度がスタートしているのです。
花粉の季節に強い味方・・・スイッチOTC薬も新税制でオトクに
《要約》今年1月から、スイッチOTC薬の購入額が年間1万2000円を超える場合、医療費控除の特例として購入額の一部(最大8万8000円分まで)が総所得から控除される「セルフメディケーション税制」が始まった。
制度をうまく活用すれば、家計負担減にもつながる。
「セルフメディケーション税制」とは?
冒頭で触れたように、通常1年間(1月1日~12月31日まで)の医療費が高額になったとき、翌年の確定申告で申告すれば、税金の還付が受けられる制度として、「医療費控除」があります。本人やご家族などが病気やケガで入院し、医療費がかさんだという経験がある方など、この制度について、ご存じの方や利用したことがある方も多いと思います。
そして今年1月からスタートしている「セルフメディケーション税制」のセルフメディケーションとは、WHO(世界保健機構)において「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されている考え方です。
直訳すると「自己治療」。要するに、ちょっとした病気やケガは、病院に行かずに、自分で薬を買うなどして治しましょう、というわけです。
また忙しくて病院に行くヒマもない、という人なら、土日や深夜まで営業しているドラッグストアで薬剤師に相談して医薬品を購入して、症状を緩和させ、重篤化を防ぐこともできます。
高齢社会の進展によって、国民医療費はますます増加の一途をたどっています。今後いかに医療費削減を行うかは大問題であり、国民が自発的に自分の体調や健康に関心を持ち、健康寿命を延ばすことも重要です。
このような健康の維持増進および疾病予防への取り組みとして、何らかのセルフメディケーションを実践している個人を対象に、平成28年度税制改正で創設されたのが、「医療費控除の特例」(以下、本特例)です。
「医療費控除の特例」と現行制度の違いは?
本特例は、平成29年1月1日以降、一定の「スイッチOTC医薬品」を購入した場合、その購入費用を所得控除できるというもの。
スイッチOTC薬とは、以前は医療用だったものが、一般用に転用されたOTC医薬品のことです。OTCとは、「Over The Counter」の略で、ドラッグストア等のカウンター越しに売られる薬、つまり市販薬のこと。医療用から一般用にスイッチされたということでスイッチOTC医薬品とも呼ばれています。
OTC医薬品で1番多いのは、外用鎮痛消炎剤(インドメタシン)だそうです。このほか、たとえば、花粉症の内服薬の「アレグラFX」や鎮痛剤の「ロキソニンS」、胃腸薬の「ガスター10」など、各家庭の常備薬として利用されている薬が多く含まれています。
対象になるOTC医薬品は約1500品目で、厚生労働省では、スイッチOTC医薬品の種類として83成分(平成29年1月13日現在)が公表されています。
医療費控除と本特例の違いは、次の図表の通りです。
医療費控除 | 医療費控除の特例 | |
---|---|---|
適用範囲 | 自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合 | |
対象となる医療費 | 医師・歯科医師による診療または治療の対価、治療または療養に必要な医薬品の購入の対価等 | 一定のスイッチOTC医薬品の購入の対価 |
適用対象者 | 居住者 | 一定の健康診査や予防接種など特定の取組を行った個人 |
控除される金額 | 実際に支払った医療費のうち10万円を超える部分の金額* | スイッチOTC医薬品購入費のうち、1万2,000円を超える部分の金額 |
控除限度額 | 200万円 | 8万8,000円 |
適用期間 | 期間の定めなし | 平成29年1月1日~平成33年12月31日 |
その他 | 重複適用不可。いずれか選択制 |
*その年の総所得金額等が200万円未満の場合、総所得金額等5%の金額となる。
「医療費控除の特例」を利用する場合の3つのポイント
「医療費控除の特例」と現行制度を比べると一番のポイントは、適用が受けられるハードルが低くて、控除される可能性が高いということでしょう。
ただし、利用する場合に注意すべきポイントは3つあります。
・適用を受けるには「一定の取組」を行う必要がある
適用対象者は、「健康の保持増進および疾病の予防への取り組みとして一定の取組」を行った人です。
具体的には、①特定健康診査、②予防接種、③定期健康診断、④健康診査、⑤がん検診のいずれかで、医師が関与するもの限定となっています。
おそらく勤務先などで、毎年健康診断や人間ドックなどを受けている人は、簡単にクリアできそうですが、自由業・自営業・専業主婦など、定期的に健康診断を受けていない人は、自治体から案内される特定健康診断等を受診する必要があるでしょう。
また、定期接種やインフルエンザワクチンなどの予防接種も対象に含まれていますが、全額自己負担で受けた任意の人間ドックは対象外です。
なお、これらの「一定の取組」を行ったことを証明するため、確定申告の際に、領収書や検査結果などの証明書類などが必要になりますので、レシートなどと一緒に保管しておきましょう。
購入したレシートには、下記のように対象商品が分かるようになっています。併せてご確認を。
・適用が一定期間のみの‘期間限定’制度である
医療費控除は、期間の定めのない恒常的な措置ですが、本特例は、適用期間が定められている時限措置となっています。
他の税制改正と同様、期間延長される可能性はありますが、ずっと続くわけではない点には注意が必要です。
・医療費控除と本特例は併用できない
本特例は、医療費がそれほど大きくない家計のための、いわば補完的な位置づけとなります。
現行の医療費控除の方が控除額は大きいので、一般的には、入院や手術など医療費が高額になった場合、医療費控除を優先させた方がオトクになる可能性が高いといえます。
とはいえ、特例が有利になるケースもあるので(【パターン2】参照)、いずれがオトクか制度の内容を理解して使い分けることが重要です。
医療費控除の特例と現行制度の比較
<前提条件>・総所得金額等500万円
【パターン1】
- 医療費控除対象金額:15万円
- 医療費控除対象金額のうちスイッチOTC医薬品の購入金額5万円
現行制度を選択 | 医療費控除の特例を選択 | |
---|---|---|
控除額の計算 | 15万円―10万円=5万円 | 5万円―1.2万円=3.8万円 |
控除額 | 5万円 | 3.8万円 |
判定 | 医療費控除(現行制度)を選択した方が有利 |
【パターン2】
- 医療費控除対象金額:12万円
- 医療費控除対象金額のうちスイッチOTC医薬品の購入金額5万円
現行制度を選択 | 医療費控除の特例を選択 | |
---|---|---|
控除額の計算 | 12万円―10万円=2万円 | 5万円―1.2万円=3.8万円 |
控除額 | 2万円 | 3.8万円 |
判定 | 医療費控除の特例を選択した方が有利 |
【パターン3】
- 医療費控除対象金額:5万円
- 医療費控除対象金額のうちスイッチOTC医薬品の購入金額3万円
現行制度を選択 | 医療費控除の特例を選択 | |
---|---|---|
控除額の計算 | 5万円―10万円=▲5万円 | 3万円―1.2万円=1.8万円 |
控除額 | 10万円を超えないので、現行制度は対象外 | 1.8万円 |
判定 | 医療費控除の特例しか適用できない |
【パターン4】
- 医療費控除対象金額:19万円
- 医療費控除対象金額のうちスイッチOTC医薬品の購入金額11万円
現行制度を選択 | 医療費控除の特例を選択 | |
---|---|---|
控除額の計算 | 19万円―10万円=9万円 | 11万円―1.2万円=9.8万円 |
控除額 | 9万円 | 8.8万円(上限は8.8万円のため) |
判定 | 医療費控除(現行制度)を選択した方が有利 |
「医療費控除の特例」の今後の課題
セルフメディケーション税制が普及するために最も必要なのは、まずこの制度の存在を多くの人に知っていただくことだと思います。
そのため、年明け以降、テレビや新聞等のメディアで特集を組んだり、薬局などでは以下の識別マーク付の商品を見かけたりするようになりました。
しかし、昨年末の時点で、各種医療者向けのセミナーで「来年以降スタートするセルフメディケーション税制知っていますか?」という質問を投げかけたところ、知っているという医療者はほとんどいませんでした。
一般の方の場合も同様で、現行の医療費控除についてさえ、その存在を知っていても、具体的にどのように手続きするのか、対象になる医療費はどれかなどを正しく理解している方は多くありません。
OTC医薬品に関しても、ジェネリック医薬品と混同しておられる人もいるようです。利用に関しては、薬剤師に相談して、必要に応じて、病院で診察を受けることも大切です。
今後は、「かかりつけ医」とともに「かかりつけ薬局or薬剤師」がマストの時代になってくるのかもしれませんね。
参考
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」
//www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20170201-OYT8T50055.html?from=yh
- 日本一般用医薬品連合会「知ってトクするセルフメディケーション税制」
//www.jfsmi.jp/lp/tax/
- 国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択適用」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1131.htm