生命保険会社は健康応援企業に変貌していくのか

以下は、今年3月29日に損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社(以下「SJNKひまわり生命」)が発表したもので、「リンククロス じぶんと家族のお守り」という名称の保険商品の保障内容と、それに付帯するサービスの内容について紹介しています。

その中で、契約の途中で保険料の引下げが可能となる新しいサービスが発表されています。

当社の収入保障保険は、加入時の健康状態に応じて保険料率が決まっていましたが、今般、契約の途中からでも保険料の引下げが可能となる取扱い「健康☆チャレンジ!制度」を開始します。

目次

保険金を毎月給与のように支払うタイプ

まずは、この保険商品の概要について見てみましょう。

「じぶんと家族のお守り」は、被保険者が死亡したり、所定の高度障害状態となったときに、あらかじめ定めた保険期間にわたって保険金が年金のかたちで支払われるタイプの保険商品です。

したがって、被保険者が死亡する時期が遅くなるほど、支払われる保険金の受取総額は減少します(ただし2年間の支払最低保証期間があります)。毎月受け取る金額や期間は、定められた範囲の中で個別に設計することができます。

この保険は死亡・高度障害だけではなく、特約を付けることにより、次の場合にも一定期間年金を受け取ることができます。

<就労不能保障に関する保障>

  • 障害等級1級または2級と認定され、障害基礎年金の受給権が生じた場合
  • 所定の就労不能状態となった場合

<メンタル疾患・七大疾病保障に関する保障>

  • 所定の精神疾患で60日以上継続入院したとき
  • 七大疾病(がん(悪性新生物)、急性心筋梗塞、脳卒中、慢性腎不全、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患)によって所定の事由に該当した場合

さらに、七大疾病や就労不能状態となって要件を満たすときに、保険料の支払いを免除できる特約もあります。

つまり、収入の担い手のリスクとして、発生頻度は小さいけれども、実現してしまうと非常に大きな経済的ダメージを包括的にカバーする保険商品と言えます。

生保会社が健康サービスブランドを立ち上げた

SJNKひまわり生命では、2016年9月に「Linkx(リンククロス)」という健康サービスブランドを立ち上げ、同社がグループの関連会社とともに、「健康」を軸とした革新的なサービスを提供することで顧客を支援することを目指しています。

今回の解説する生命保険商品に付帯された新しいサービスは、同社が推進している、いわば「健康応援」とも言える取組みのひとつです。

健康への取組みで保険料が保険期間の途中で安くなる

最近の生命保険商品は、契約時に一定水準の健康状態を保っていることを前提に、

  • 身長と体重の関係から割り出した肥満度の指数(BMI)が一定の範囲におさまっている
  • たばこを吸わない

という条件を満たすことにより、保険料が割引かれる取扱いが一般的になってきました。

逆にこの条件を満たさない場合は、それに対応する(条件を満たした場合よりも高くなる)保険料が適用されてしまいます。

この保険では、契約の途中で健康状態の改善に取り組むことで成果を出せば、保険料の引き下げが可能となる取扱いができる、保険業界初の試みが行われています。

例えば、契約時にこの保険に加入できる状態であったものの、若干太り気味でであった人が、日常生活に運動を取り入れることで体重を減少させたり、血圧を降下させたりして一定の状態になれば、「健康体」として取り扱われることになります。また、禁煙を行って一定期間経過すれば「非喫煙者」として取り扱われることになります。その時点で保険料率の変更を申し出て、保険料を引下げることができるのが、「健康☆チャレンジ!」の制度です。

そもそも最初の契約時に一定の健康状態の範囲内になければ、この保険に加入することはできません。そして、その時の健康状態の告知の内容により、この制度が活用できない場合がある点に注意が必要です。

また、保険料率変更の申し出の際に、喫煙状況・血圧・BMIが改善していても、健康状態などが同社の定める基準を満たさない場合には取扱いできません。

なお、以後の保険料が安くなる場合は、契約日にさかのぼって計算した保険料の差額に相当する額が契約者に払い戻されます。

この制度を利用することができる期間は、契約日からその日を含めて2年以上5年以内に限られています。また、保険料率変更の申し出を複数回行なう場合、前回の変更の申し出から1年を超えたときに行う必要があります。したがって、この申し出は3回が上限となっています。

健康応援サービスは

保険料の割引き以外にも、さまざまなサービスが用意されています。

代表的なものは、「リンクスフィット」の名称で行っている健康管理サービスです。

アプリを利用して、BMIや血圧を一定範囲内にキープするための食事の記録を行うなどの健康管理を行います。また、管理栄養士などの専門家による食事の内容や、生活習慣のアドバイスが受けられます。

生命保険会社の中には、以前から電話で健康に関する相談サービスを行っているところがあります。同社のアプリによるサービスは、さらに目標が明確になり、自己管理しやすく、実効性が上がると思われます。

さらに「禁煙クイットライン」(国立研究開発法人国立がん研究センターの登録商標)と呼ばれる禁煙サポートのサービスも行っています。禁煙に関する情報や禁煙の方法などついて、電話によるアドバイスが受けられます。

これらの健康応援サービスは、対象となる保険契約の有効期間中で、かつ、契約日から5年以内に限定されている点に注意が必要です。

このサービスから見えてくるもの

健康診断の結果から算出した「健康年齢」をもとに保険料を設定し、健康状態が良好な被保険者に割安な保険料が適用される保険商品は、一部生命保険会社・少額短期保険会社で取り扱われています。

保険商品は、どうしても画一的な商品になりがちで、各社の特色が出しにくい現状があります。他社との差別化を行う場合には、保険料を安くするか、特徴的なサービスを提供するか、この2つの点が消費者に訴求する上で大きなポイントになるところです。

SJNKひまわり生命の「健康☆チャレンジ!」の制度は、さまざまな制限はあるものの、健康づくりが顧客の幸せにつながり、保険料の引下げ・契約時にさかのぼって差額分が受け取れるという目に見える経済的な効果が期待できます。そしてそれを可能にするために、被保険者が取り組むための行動をサポートするツールの開発は、注目すべき点です。

このような被保険者の積極的な取り組みで、引受生命保険会社の保険金の支払額が引き下げられて財務体質がよくなる効果も期待でき、顧客と保険会社双方がWINWINの関係となることが可能になります。

同社のこれらの取組みは、生命保険会社が健康応援企業に変貌するプロセスと言うことができると思います。このような新しい価値は、生命保険会社の今後の潮流になっていくのではと期待しています。

参考

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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