「トランプ・ショック」から学ぶ・投資の世界の傾向と対策

米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選確実との情報が世界を駆け巡った直後、日本の株式市場は大きく揺れて、11月9日の日経平均株価は前日の1万7,171円台から1万6,251円台へと急落しました。

“トランプ氏当選は多くの市場関係者にとって想定外であったため、米国経済の行方が不透明なことからドル売りが進み、円高、株安が進行する”というマスコミのコメントが並びました。ところがなんとその翌日には一転して株価が急上昇、10日の終値は1万7,344円台と一気に回復しました。「トランプショック」は一夜にして「トランプ景気」に変わったのです。そして、その後1ヶ月間は概ね上昇が続き、急落直前の株価よりも更に1,300円以上高い水準を保っています。(12月7日現在1万8,496円台)

このジェットコースターのような大幅な株価急変の経緯に関して、日経新聞の12月4日のコラムは次のように解説しています。

  • トランプ候補に対する警戒感の強さから当選確実の報を受けて市場が反応し、日米ともに株価は大幅に下落した。しかし翌日以降、予想に反して株式相場などが堅調だ。これはおそらくインフラ投資や減税に関するトランプ氏の発言を市場参加者が都合よく解釈してきた面が強い。
  • その後の彼の発言には保護主義的な姿勢が表れ始めていて、大統領に就任した後には通商交渉を通じてドル安誘導に動くとの見方は根強い。そうなると円は強含み、日本の株価が下落に転じる懸念が浮上する。
  • トランプ氏の経済政策は中期的に見て世界経済や市場を不安定にする要素を含むので、日本政府や企業は現在の円安・株高に安心することなく次期政権との人的つながりを築き、米国の経済政策の分析を急ぐべきだ。

結局はどうなるのかはよく分からないから、今後の米国の経済政策を見極め、分析するべきだという至極当然の結びとなっています。

私はこの市場の動きを見たときに、「世界が注目する事象が起きた際には、株価が上がる場合と下がる場合の両方があり得る」ということを感じて、目が覚めるような思いを抱きました。また、市場変動の理由についてマスコミなどが発信する説明は、結局は後出しじゃんけんのようなものでしかないのかなとも感じました。

さて、この一連の動きから私たち庶民は何を学ぶべきなのか、また、何を感じ取るべきなのかをこの機会に考えてみようと思います。

乱高下する株式相場などに庶民は手を出すべきではないのか?

景気低迷が続き、超低金利で貯金は増えず、少子高齢化と財政難で老後の不安を抱える私たちが、将来に備えて少しでも資産を増やしたいと考えても、株式投資などにはやはり手を出すべきではないのでしょうか? 否、私はそうは思いません。

市場経済を中心とした資本主義の世界に生きている以上、株式・債券投資などの運用手段や、投資信託、投資型保険や外貨建て保険などの金融商品との関わりを一切断つのは非現実的です。また、私たちが直接資産運用や投資を行わなくても、銀行や保険会社の運用を通じて私たちのお金は常に金融市場に流れています。

例えば一般的な生命保険契約も、その保険料の多くが国債によって運用されていますし、老後資金の柱である「公的年金」の資金は株式及び債券の投資によって運用されています。私たちの生活に投資の世界は直結しているのです。

誰もが自ら資産運用や投資をするべきだというつもりはありませんが、給与天引きの財形貯蓄や、コツコツ貯める貯金箱、家計費の節約、ポイントカードの有効利用などと同列に、ライフプランの選択肢として投資商品を加えておくべきだと考えます。

(以下、株式や債券への投資、それを商品化した投資信託、投資型保険や外貨建て保険などすべてを含めて、便宜上「投資商品」と呼ぶことにします。)

一般庶民の投資はどうあるべきか

さて「トランプ現象」に際して日本の株価が下がったり上がったりしたのは、投資家たちが情報によって市場を予測して行動した結果ですが、そのように市場価格に大きな影響を与える投資家は大手金融グループや海外の投資会社などです。彼らはグローバルな金融市場、国際情勢などの情報収集と分析に多大な労力とコストを費やして、昼夜を問わず投資活動に専念します。近年では専用コンピューターシステムとグローバルなネットワークによって瞬時に売り買いを実行できるようになっており、他者を出し抜く超高速取引の競争にもなっています。とても一般庶民が太刀打ちできるものではありません。

私たちが実際に投資を行う場合は一部の熟達したプロ並み投資家を除いて、個人と金融市場を仲介する金融機関を経由します。具体的には証券会社や銀行、保険会社の営業社員や代理店など営業の人たちを介することになります。彼らの仕事は「投資」そのものではなく「投資商品の販売」なのですが、彼らは投資のプロなのでしょうか? 投資の素人である一般庶民に判断材料として彼らが与えてくれる情報は、投資のための適切な情報でしょうか?

投資商品を販売する者は一定の資格を有し、また、いくつかの法律の規制(金融商品販売法など)によって縛られています。国が認める資格を持ち、専門知識の研修を受け、法律を守り、金融の常識を身につけているはずの真面目な販売員であれば、彼らを通じて購入する投資商品は良い商品なのでしょうか? それを判断するためには投資商品販売の実態について知っておくべきことがあります。

銀行が売っている投資商品だから安全性が高い?

例えば銀行は法規を守るために、またその堅いイメージを壊すことの無いように、さらに販売後の顧客とのトラブルを避けるためにも、投資商品のリスクについてはこれでもかと言うくらいに説明をしています。パンフレットや重要事項説明書類には想定されるリスクのすべてについての記載がありますし、口頭での説明もあるでしょう。しかし、すべてを網羅したリスクの事細かな記載が、かえってその商品のリスクの特性や本質的な理解を妨げてしまうという可能性もあります。

また、買う側の消費者も「リスクリスクと言うけれど、銀行さんが勧めるのだから安全なのであろう」という根拠のない思い込みで、冷静な判断にならない可能性も小さくないでしょう。

コンプライアンス上の必須条件としてのリスクの説明は、投資商品を選ぶための必要な情報とは別の次元のものであり、商品選択の前に、投資や金融の基本知識の修得が絶対に必要なのだと思います。

投資商品のパンフレットを読む前に知っておくべき重要なこと

投資の基本知識について詳細な解説は割愛するとして、ここでは最低限抑えておきたいポイントのみに触れておきます。

その1:投資商品の販売員は投資のプロとは限らない

前述したように彼らの仕事は投資商品を売ることであって、投資することではありません。もし彼らが投資のプロとして十分な知識と経験と技量と運を持ち合わせているのなら、彼らは自分自身で投資をして生計を立てているはずです。また、実際の投資行動においては投資家が「何もしないで時期を待つ」こともありますが、投資商品販売員が「何も販売しないで期間が経過」すればクビになってしまうかもしれません。

その2:金融市場は常にバブルの生成と崩壊を繰り返す

資本主義経済社会の商売の原理は「安く買って高く売る」ことであり、投資商品もただ持っているだけでは収益は発生せず、高値で売るから投資の価値があるわけです。しかし、その商品の現在の価格が安いのか高いのかを見極めるのは素人には難しいことです。(価格の下落で収益が発生するデリバティブなどについては、ややこしくなるのでここでは触れません)

何かのきっかけで価格上昇したことに目を付けたプロ投資家が「上昇トレンド」を作るために連携して買いに走り、その結果としての上昇傾向がしばらく続く。それを知ったセミプロ級の投資家が買い始める。その動きを報じるニュースに気付いて一般の個人投資家も「乗り遅れまいと」買い始める。一般週刊誌が「流れに乗り遅れるな」という煽り記事を書き始めると、これまで投資など全く関心も無かった人さえも貯金を下ろして投資商品を買う。その頃になると、本当のプロはすでに次の投資対象を見つけてこの商品を売り始めている。結局、バブルは必ず破裂し、逃げ遅れた素人が大けがをする羽目になります。こういうことが歴史上何度も繰り返されてきたのです。

実は「もう危ない」と気づき始めていても、どうしても自分に都合の良い情報ばかりに気を取られてタイミングを失うことがあるようです。プロ投資家だって人間なのです。(経済活動を行う際に人間は合理的判断のみで動くのではないことを「行動ファイナンス」という学問が説いています)

バブルはいつになっても無くならず、常にどこかで大なり小なり発生していると思われます。

その3:推奨販売される商品はすでに「旬」ではなくなっている

販売員が勧める投資商品は多くの場合に「現在好調な実績をあげている商品」が多いです。好調な実績のデータがあると売る側が勧めやすいことと、買う側も乗りやすいことからこうなるのでしょう。「将来の収益をお約束するものではありません」と言われても「実際に上昇しているデータ」を見せつけられれば人間の気持ちは動くのです。しかし、現実に資産価値がいつまでも上がり続けることはあまり無いので、多くの商品はある時期から売られ始めて値を下げる、あるいはすでにピークを迎えている場合が多いという訳です。

その4:短期回転売買は一般庶民の投資には向いていないはず

投資商品営業の現場には、売る側と買う側の立場の違いからなる大きな矛盾が存在すると言えます。購入後の投資商品が安定的に成長していて当分の間はじっくりと増やして行けそうな場合であっても、投資商品販売員が新発売の商品への買い替えを勧めてくることがあります。

これは投資ではなく投資商品の販売が彼らの仕事だからでしょう。買う側は長期投資を望んでいても売る側は短期の回転売買を勧める傾向があるという矛盾です。

クルマのディーラーが新車買い替えを勧めるように、投資商品販売員も常に新規契約獲得のために買い替えを勧めます。クルマは乗り心地も燃費も安全性も向上している場合が多いですが、投資商品は新しいもののほうが優れているという保証は全くありません。投資商品の買い替えで収益をあげるには、売り時と買い時のタイミングの見極めるために市場を予測する能力が必要です。一般の個人投資家や投資商品販売員にその能力があるでしょうか? 短期の買い替えの結果、投資信託などが長期的にジワジワと育ってゆく機会を奪っているという残念な現状があるようです。

その5:市場の予測は不可能であり、的中したとしてもそれは結果論

何らかの手法によって市場予測が可能であると主張する人も存在するようですが、しかしそれは、そうしておかないと仕事にならないからかも知れません。実際に市場を常に予測できることはあり得ないはずです。仮に市場が読める天才投資家と言われる人がいたとしても、それは単に偶然の結果論かも知れません。(上がるとだけ言い続けていれば、いつかは当たる)

大成功をおさめたカリスマ投資家の名前は世間に大々的に報じられるが、失敗した人は早々に忘れられてしまうので、結果的に予測的中したひとだけが記憶に残っている、ということもあるでしょう。『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について(田渕直也・著 ダイヤモンド社)』という書籍の著者が紹介している面白い例を挙げてみましょう。

ある証券会社の顧客獲得方法です。1万人の見込み客に対して市場予測レポートを送ります。半数には「来週末に株価が上昇する」という予測レポートを送り、残り半数には「株価下落」を予測するものを送ります。次週には、予測が的中したほうのグループをまた半数づつに分けて、同じように2種類の予測レポートを送る。これを数回繰り返すと「予測が的中したレポート」を続けて受け取った人が一定数存在することになる。仮に上昇と下降が五分五分だった場合は、5週間経過後に「毎週的中」を経験した人が約300人になるのです。その人たちがこの会社のファンになる可能性は低くないでしょう。

その6:どんな出来事でも投資商品のセールストークになる

前述のように「トランプショック」から「トランプ景気」への変化に私はかなり驚いた訳ですが、この一連の動きは多くの投資商品販売の現場でセールストークに使われていることだろうとも思いました。「投資の絶好のタイミング」がいつなのかは私たちにはわかりませんが、投資のプロにはきっと分かるのだろうと思いがちです。

私は以前、商品先物の営業マンから勧誘されたことがあります。一度だけ会ったことがあるその営業マン氏がある日の朝9時ごろに電話を賭けてきて、大変重要なお知らせがあると言うのです。

電話の向こう側から大勢の声が聞こえてきて、彼と机を並べるたくさんの営業マンたちが一斉に電話をしている様子が感じられました。「中国が大豆輸出制限を発表」したのは事実ですが、その後の大豆相場が上がるのか下がるのかは実際には分からないのです。営業マン氏は私に先物投資開始を決断させるためのキッカケとして、その情報を利用したというだけのことなのです。

朝早くの連絡は「あなたのために貴重な情報をいち早くお届けします!」のアピールであり、電話の向こうのざわついた雰囲気も一種のムード作りの演出だったと考えられます。(実は当時駆け出しのFPであった私は、これもひとつの勉強だと思って商品先物取引をしてみたのですが、結果は散々の大損失に終わりました。とても高い授業料でした。)

その後も、大豆の生産が好調になったとか、中東の紛争で石油の供給がひっ迫するとか、米国のハリケーンで小麦が不作だとか、様々な情報をかれらは提供してくれて、結果として私は「投資タイミングは読めない」という現実を身をもって体験させてもらったという訳です。

投資商品販売員は、世界中のどのような出来事も、良いニュースも悪いニュースもセールストークに利用する可能性があること。そしてそれらの情報に接した私たちは、合理的判断材料よりも心理的要因によってつい動いてしまうことがあることを知っておくべきでしょう。

以上見てきたように、投資商品はライフプラン上必要かつ有効な選択肢のひとつですが、商品選択を検討する前に金融、投資の基礎知識、常識を必ず身につけておくべきであることを強調しておきたいと思うのです。

今後の世界経済を読み解くには、トランプ新大統領の政策動向を注視して分析する必要があります、という至極当たり前の言葉で本稿を締めさせて頂きます。

参考

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