「第3期がん対策推進基本計画」策定と費用対効果のしくみ導入の動き

2017年10月24日、受動喫煙の取扱いや衆院選解散の日程等で、遅れに遅れていた「第3期がん対策推進基本計画」が、ようやく決まりました。

基本計画というのは、がん対策について定めた法律である「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)に基づいて策定され、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図るためのものです。それと同時に、各都道府県のがん対策推進基本計画の基本となります。

いわば、日本人の死亡原因の第一位である「がん」について、今後、日本がどのような対策を講じていくべきかという指針や方向性を示したもの。特に、がんサバイバーや彼らを支援する立場の者にとって、その内容への注目度が高くなるのは当然です。

がん対策計画を閣議決定 受動喫煙、数値目標先送り

《要約》政府は、がん対策の国の指針となる「第3期がん対策推進基本計画(以下、基本計画)」を閣議決定した。 基本計画は、2007年施行のがん対策基本法に基づき政府が策定する。今回は2017~2022年度の6年間が対象となる。

今回の基本計画は、がんの克服を目指すことを全体目標に掲げ、(1)がんの予防、(2)がん医療の充実、(3)がんとの共生(がん患者が安心して暮らせる社会の構築)-を3本柱に施策が進められる。

新計画では、がんを早期発見し、治療につなげるため、現在は30~40%のがん検診の受診率を50%に引き上げる目標を設定。さらに検診でがんの疑いがあった場合に受ける精密検査の受診率を90%に引き上げ、がんによる死亡者を減らす。

国は最先端の医療を提供すべく、ゲノム(全遺伝情報)を調べて最適な治療法を選ぶ「がんゲノム医療」の拠点病院を整備。患者や家族の理解を深める普及啓発も取り組むとする。

世代ごとに異なる課題の解決も急ぐ。対策が遅れがちだった10代後半~30代の若年成人(以下、AYA(Adolescent and Young Adult)世代)や増加する75歳以上の高齢患者への対策についても、言及されているのははじめてのこと。

新計画では、高齢のがん患者に標準的な治療を提供すべきかどうか、現状の診療ガイドラインにおいて、明確な判断基準は示されていないと指摘。国が関係学会などに協力を依頼し、高齢者向けの診療ガイドラインを作成することを明記した。

小児がんについては新薬の開発などを推進。AYA世代のがん患者に関しては、進学や就労などの相談体制を整備していく。

受動喫煙の目標については、飲食店などに受動喫煙対策を義務付ける健康増進法改正案の国会提出のめどがついていないことから、受動喫煙に関する数値目標は先送りし、法案提出後に反映させる予定となる。

基本法

第3期の基本計画は「がん予防」を前面に打ち出す

がん対策の最大の目標は、ずばり「がんによる死亡率の減少」です。

そこで、第1期(2007~2011年度)・第2期(2012~2016年度)の基本計画では、具体的な目標数値として、「75歳未満のがんの死亡率20%減少」を掲げ、がん医療の充実や相談支援など、がん患者やそのご家族への対策を中心に行ってきました。

しかし、2005年からの10年間の死亡率の減少は15.6%にとどまる結果に。

第3期では、その原因として「喫煙率やがん検診受診率の目標値が達成できなかったこと」を挙げ、これまでと同じ対策では限界があるとして、がん検診等に具体的数値目標を掲げ、がん患者を作らない、「がん予防」を前面に打ち出している点が特徴的でしょう。

また、目標未達のもう一つの原因でもある喫煙率については、受動喫煙対策に関して、厚生労働省の有識者会議では、東京五輪・パラリンピックのある2020年までに「飲食店や職場、家庭など全ての場所での受動喫煙をゼロ」とする新目標を盛り込む方針で一致していました。

ところが、自民党との調整が難航し、基本計画と健康増進法の改正法案のとりまとめを待つこととして、結局、数値目標の記載は見送られています。

がん予防や医療にも「費用対効果」の視点を導入

第3期の基本計画では、「がん予防」に注力していると述べましたが、気になるのは、分野別施策と個別目標で明記されたがん予防に関する冒頭の記述です。

がん予防は、世界保健機関によれば、「がんの約40%は予防できるため、がん予防は、全てのがん施策において、最も重要で費用対効果に優れた長期的施策となる」
(「第3期がん対策推進基本計画」より抜粋。下線は筆者)

つまり、どんながん対策よりも、がん予防が「費用対効果」という観点で最も優れているため有効であると言っています。

医療の世界にコストパフォーマンス(コスパ)評価を持ち込むというのは、なんだか違和感があるかもしれません。

しかし、国民医療費は増大の一途をたどり、平成24年度は39.2兆円にものぼります。今や、その抑制は大きな社会問題の一つ。このうち3.8兆円を占めるがん医療も例外ではないのです。

2015年6月、厚生労働省のがん対策推進協議会がまとめた「今後のがん対策の方向性について」でも、「将来にわたって持続可能ながん対策の実現」として、次のように明記されています。

がんの予防や早期発見、がん治療等を推進するに当たって、有効性や安全性の観点はもとより、費用対効果の観点から政策の検証を実施していくことも必要である。(「今後のがん対策の方向性について(~これまで取り組まれていない対策に焦点を当てて~)」より抜粋。下線は筆者)

「1年の延命、500万円以上」なら薬価引き下げ

コスパ評価の動きはこれだけにとどまりません。

第3期の基本計画が閣議決定された翌日の10月25日。厚生労働省の中央社会保険医療協議会で、新薬の薬価に費用対効果を反映させるしくみを導入するという方針を出しました。

提示された案では、健康な状態で患者を1年間延命させるために、従来の薬と比較して、500万円以上多くかかった場合に薬価を引き下げるとしています。

これは「QALY」(質調整生存年、Quality-adjusted life year)という分析手法で、医療行為に対する費用対効果を経済的に評価するものとして用いられます。

上記の「健康な状態で患者を1年間延命させる」=1QALYとして評価するわけです。

この500万円という目安は、1QALYが得られる延命治療に対しての支払い意思額を調査した結果、半数の人が許容できる額が485万円だったこと。すでに、このしくみを導入している英国の評価基準を参考に算出したということです。

英国の医療保障制度は、税金を財源としているため、医療給付にも効率性が求められます。おおむね1QALYあたり2~3万ポンド以下であれば効率的とされ、1ポンド=約151円で計算すると、約302~453万円ですので、ほぼ同水準といえるでしょうか(レートは2017年11月1日現在)。

日本でもこのしくみは、すでに2016年度から高額な医薬品等に試行的に導入されており、がん治療薬「オプチーボ」などの薬価引下げが行われました。

今後は、一部を対象に2018年度の薬価改定から適用され、追加品目や具体的な引下げ幅などは検討事項とされるとのことです。

医療に経済的観点が持ち込まれるということの意味

費用対効果の導入は、効果的な医療費抑制策の一つとして期待されますが、製薬会社などからは、新薬の開発に影響が出るなどの反発も出ています。

それより何より、私たち患者やご家族にはどのような影響があるのでしょうか?

まずは、高額な医薬品の薬価に上限が設けられ、引き下げられる可能性があるというのはありがたいことでしょう。

しかし、500万円も負担できない患者にとっては、もっとハードルを低くしてほしいという思いもあるはずです。

もちろん、日本には国民皆保険制度がありますので、500万円が実際の自己負担額になるとは限りません。しかし、それは、その医薬品が保険適用となっているということが前提です。そして保険適用されている医薬品であっても、すべてのがん種に適用されるわけでもありません。

さらに、費用対効果のしくみが保険収載にも導入されることになったらどうでしょうか?

つまり、例えば、「1QALYあたり500万円以下ならその医薬品の保険適用を認める」となった場合、Aという抗がん剤が、この基準を下回れば保険収載されません。そうなるとAを使いたいがん患者さんは、全額自己負担で治療を受けなければならないのです。

実際、英国では、費用対効果が劣るという理由で、日本で保険適用が認められている医薬品が保険収載されていません。

このように医療に経済的観点が持ち込まれると、費用対効果が劣った医薬を患者が受けようとした場合、アクセスに困難が伴い、費用負担もかなり重くなります。つまり、お金がなければ、受けたい医療を受けられないということです。

少子高齢社会の進展は、とりわけ医療や介護の現場において大きな影響を与えており、筆者も、日々、公的保障の限界を感じています。

社会構造を考えると、それはある意味で仕方のないことなのですが、患者やそのご家族、利用者といった一般国民の意思や意向が置き去りになったまま、どんどん物事が進んでいるような印象が否めません。

とにかく、確実に言えるのは、個々のリスクや状況に応じた「自助努力」が求められる時代が、すぐそこまで来ているということです。

参考

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