結婚などの意識調査、その質問や分析から見える保険会社の姿勢

保険会社の中には、積極的に人生やお金、ライフプランに関する調査を行っている会社があります。私自身、人生に関わるお金の相談を受ける立場として、様々な調査結果を見るのが好きですが、今回、衝撃的なニュースタイトルがあったので、その中身をチェックしてみました。すると、いくつかの問題点が見えてきたのです。

「結婚したくない」女性31%で男性のほぼ2倍 日生が独身者に調査

日本生命は、契約者を対象にインターネットで調査を行い、6月15日付で「結婚に関する調査結果」を公表した。
中でも独身者に対する「将来結婚したいと思いますか?」という質問に対して、「結婚したくない」「あまり結婚したくない」という回答が全体の24.0%を占めたことが分かった。その男女別の内訳をみると、女性が31.0%、男性が16.3%と、女性のほうが男性のほぼ2倍を占めるほどの高い比率だった。

これを見て、え?と思った人も多かったのではないでしょうか?
タイトルを見て、「うまいなぁ」と私も思いましたが、その調査の元データを見て、唖然としました。

「結婚したくない」という回答者の年代を見てから、その分析に疑問を感じたからです。
また、そもそも保険会社は何のために調査を行い、その結果を公表するのでしょうか?その意図や狙いに保険会社の戦略があることもうかがえます。
以下、順に整理してみましょう。

目次

「結婚したくない女性」31%に70代以上の回答まで含まれている!

冒頭のニュースのタイトルにある「結婚したくない」人の割合は、日本生命の調査結果の要旨からピックアップされたものですが、非常にインパクトがありますよね。
しかし、調査内容をよく見ると、以下のように、独身者に対して「将来、結婚したいと思いますか?」という質問を投げかけ、回答は、20代未満から70代以上まで全年齢を集計したものでした。(以下抜粋)

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【出典】ニッセイ インターネットイアンケート 6月「結婚に関する調査結果」 //www.nissay.co.jp/news/2015/pdf/20150615.pdf

この集計と分析をみて、違和感を感じませんか?
「結婚したくない」「あまり結婚したくない」という回答が「女性は31%を占める」とありますが、その割合を引き上げているのは、主に70代以上の82.5%、60代の71.7%という数字ではないでしょうか?

結婚は、年代や年齢に大きく影響するテーマだと思います。結婚という言葉から本人がイメージするものも期待するものも様々でしょう。年代によって異なる価値観や背景を考慮することなく、ただ質問をし、回答を単純集計するだけでは、世の中に役立つ情報提供とは言えないとさえ思います。

そもそも、こうした調査を保険会社は、何のために実施し、その結果をどのように活かそうと考えているのでしょうか?こうした視点で見ると、今回の調査についていくつか気になる点が浮かび上がります。

調査は目的に合わせた質問や集計結果の分析が重要

僭越ながら、私自身も今までいくつかの調査に携わり、調査対象者や質問項目などを考えるときは非常に注意を払ってきました。一つ質問のしかたを間違えると、参考にできるはずの回答が無意味なものになってしまうからです。その点で、以下の点は再考の余地があると思います。

(1)質問項目が画一的ではないか?

まず、質問項目を見ると、以下のような内容になっています。(以下抜粋)

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正直なところ、私だったら、この質問では答える気力が萎えてしまいます。
特に「結婚」というテーマは、時代背景による考え方の違いはもちろん、エリアや兄弟などの家族の関係などの影響もあるでしょう。いきなり「結婚費用は?」という金額から入るところで、画一的な浅い質問のように感じてしまいます。

調査する側も、このテーマをしっかり調査して社会に役立てたい、今後のサービス開発などに活かしたいなどの目的が明確なら、もう少し質問項目を検討したり、質問対象者を絞り込むなど工夫の余地があるように思えてなりません。
例えば、「どのような結婚ならしたいと思うか」「結婚で得られるもの・得られたもの」など、前向きな気持ちになるものや、気づきを与えるような質問があれば、私は喜んで調査に協力したいと思ってしまいます。

(2)分析は、年代ごとの時代背景や価値観の違いなども考慮すべきではないか?

冒頭の「結婚したくない」という回答だけでなく、「結婚費用」についても、回答の内訳をより丁寧に、背景も含めて分析することが大事だと思います。

結婚費用は、「独身者の想定額よりも既婚者の回答のほうが高額」と分析されていますが、既婚者の回答には、バブル期など派手な披露宴が流行った時期の額も含まれています。単に全年代の独身者の想定額と既婚者の金額を比較するだけではなく、やはり年代ごとの時代背景の違いや価値観の違いを考慮することが必要ではないでしょうか?

(3)調査目的を明確にし、結果や傾向を将来的に活かす視点を持つべきではないか?

この調査は、日本生命が契約者専用サイトで、契約者向けにアンケートを行い、回答者にはポイントを付与するという形で実施されています。コストを抑えて実施でき、ほぼ毎月、テーマを変え、回答数も数千人から2万人以上など様々です。実際、回答者もポイントがもらえるというモチベーションでやっている人が多いのでしょう。

しかし、テーマの選定を見ても、2015年は、「抱負・期待(1月)」「バレンタインデーについて(2月)」「教育資金の準備(3月)」「女性の活躍推進(4月)」そして、今回の「結婚について(6月)」など、そのときの旬な話題をあげている程度に見えます。

せっかく既契約者の声を集めるのですから、アンケート回答をどのように活かすのか、趣旨や目的をより明確にして内容を吟味したら、こうした調査内容は「大きな宝」になるはずです。現時点では、非常にもったいないとさえ思います。

保険会社の調査の目的として考えられる3点とは?

ちなみに、保険会社が調査を行う目的として、私は以下のように考えています。

1つ目は、保険会社自体がターゲットとしている生活者の実態を真っ先に知れること
2つ目は、その調査に興味ある人への広告効果が高まること
3つ目は、客観的な調査を行っているという会社の信頼度がアップすること

1つ目については、保険会社がどれだけサービス対象者を意識しているかがわかると思います。

例えば、ソニー生命は、ライフプランナーが幅広い年代層の方にアプローチしている会社なので、テーマも、ライフプランニングにそって、子どものいる家庭、働く女性、就業など、幅広く様々な内容になっています。

<ソニー生命の調査の例>
「ライフプランニングに関する調査(平成27年1月)」、「子どもの教育資金と学資保険に関する調査 2015(平成27年3月)」、「女性の活躍に関する調査 2015(平成27年3月)」、「社会人1年目と2年目の意識調査 2015 (2015年4月)」など。

一方、ライフネット生命は、子どもを産み育てる比較的若い世代に対する保険サービスを重視しているので、調査の視点も、若い人や家計見直しを意識する世代や、扶養家族のいる家庭を意識しているのがわかります。
特に象徴的なのは、2013年に行った「ドラゴンボールに関する調査」。これはアニメに興味がある若い世代を中心に「ドラゴンボールの魅力は?」や「もしも、ドラゴンボールで願いが叶うなら?」のほか、「生命保険を勧めたいキャラクターは?」というユニークな質問が多く、2つ目の目的にあげた「その調査に興味ある人への広告効果」を十分に高めていると言えるでしょう。

<ライフネット生命の調査の例>
「消費増税から1年。2015年、今年こそ見直したいものに関する調査(2015年3月)」、「主婦1,000人に聞いた、夫が働けなくなるリスクに関する意識調査」(2014年11月)ドラゴンボールに関する調査(2013年)など。

なお、ソニー生命もライフネット生命も、ネットエイジアリサーチのモバイルモニター会員を母集団として調査を実施しているようです。ある程度のコストをかけて取り組んでいる点も、調査結果を大切に活かそうとする姿勢に繋がるのではないかと思います。

このように、保険会社の実施する調査について、ただ結果の要旨を追うのではなく、何のために何を狙いとして実施しているのかという視点で見ると、そのテーマや質問項目などから、保険会社の目指している方向性が見えてくるのではないでしょうか?
保険は長く付き合う商品なので、会社の方向性がぶれていないところを選びたいと思う際には、こうした調査の視点も一つの参考にすると面白いと思います。

参考

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この記事を書いた人

一般社団法人円流塾代表理事、STコンサルティング有限会社代表取締役。一橋大学卒業後、保険会社の企画部・主計部を経て1994年独立。CFP®、1 級ファイナンシャルプランニング技能士。約20年間、金融商品は扱わず、約3300件の家計を拝見してきた経験から、お客様の行動の癖や価値観に合わせた「美しいお金との付き合い方」を提供中。TV出演、著書多数。

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