住宅ローンの団体信用生命保険、「自殺免責1年」のナゾを追う!

生命保険の自殺免責は2~3年なのですが、何故か住宅ローンの団体信用生命の免責期間は1年だったことに、最近、気が付きました。一体どうしてなのかとあれこれ調べ、各所に取材してようやく理由らしきものにたどり着きました。その中で、保険における「自殺免責」というものの意味を再考する機会にもなりました。

目次

新発売の住宅ローン、団信の自殺免責が1年

疑問を抱いたきっかけは、三井住友銀行から今年4月に発売された「連生団体信用生命保険付住宅ローン(クロスサポート)」という住宅ローン商品でした。

住宅ローンを借りる際、借りた人が万一亡くなったときに、債務を清算できる団体信用生命保険(団信)に加入します。フラット35など一部の商品を除いて団信への加入は必須で、しかも多くの場合、保険料は金利に含まれています。

この新商品は、夫婦で収入合算をして住宅ローンを借り(連帯債務型)、夫婦の一方が万一亡くなった場合にその時点の残債すべてが保険で清算されます。これまでの住宅ローンでは、亡くなった人が借りていた住宅ローン分しか清算されず、遺族に負担が残っていた点を改善した商品です。

上乗せ金利は年0.18%、中途解約は原則できないなど、スペックを眺めていて気になったのが、「保障開始日から1年以内に自殺されたときは保険金が支払われません」という1文。つまり、自殺免責が1年だということです。

おや、おかしいぞと。生命保険の場合、死亡保険金の自殺免責は2~3年。団信といえども保険会社が引き受ける生命保険で何ら変わらないはずなのに、なぜ1年と短いのでしょう。そもそも他の住宅ローンの団信はどうなっているのかといくつか調べてみたところ、住宅ローンの団信は1年が多いようです。フラット35も1年でした。

生命保険の自殺免責期間が延びてきた歴史

ここで一旦、住宅ローンの団信の話は横に置き、生命保険の「自殺免責」について確認しておきましょう。

現在、生保会社は約款で2~3年の自殺免責期間を設定していて、その期間は保険金が支払われないものの、免責期間を過ぎれば自殺であっても原則、保険金は支払われます。免責期間が2年か3年かなどの違いはあっても、自殺が死因の場合に「一切保険金を支払わない」としている生命保険会社はありません。なぜなら、保険料を算出する死亡率の中には自殺も含まれているためです。

こうした免責期間は保険法などで定められたものではなく、あくまでも保険会社が約款に基づいて決めているものです。自殺に免責期間が設けられているのは、保険金を目的として自殺をする覚悟で加入してくる人を排除するためで、つまり、保険金を不正に受取る「モラルリスク」を避けるため。

現在、免責期間が2年または3年とされているのは、2~3年なら自殺の意志を持って契約する人も少なく、仮に自殺の意志を持って契約したとしても、この期間を超えて自殺の意志を貫くケースは少ない、とされているためです。

実は、自殺免責期間は1~3年の間で何度か見直されてきました。

免責期間は当初1年だったものが、いったん2年になったものの、「自殺の意志は1年は続かないはず」という研究者の論文に基づいて1970年代に1年に戻されました。しかし、80年代に「13ヶ月目の自殺」が増えた事実や、1998年以降急激に自殺者が増えて年間3万人を超えた(図表1)ことなどから、生保会社が期間を見直し、2年ないしは3年に延ばしてきた歴史があります。現在、多いのは免責3年です。

 <自殺免責期間>

1930~1940年免責1年
~1971年免責2年
~2000年前後免責1年
~現在免責2~3年

出典:「金融財政事情」2015年5月11日号「自殺免責期間とモラルリスク」

図表1 自殺者数の推移

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かつては、消費者金融をはじめ借金が返せなくなり、中には自殺をして保険金で返すことを強要されるケースもあり、問題になりました。十分な説明もないまま、消費者金融を借りる際に同時に団信に加入させられていたことが自殺につながったことも指摘されました。現在は過払い金問題などで業界の健全化が進み、悲劇は減ったように思います。

なぜ住宅ローンの団信は1年のままなのか?

さて、本題です。

生命保険が自殺免責を2~3年へと延ばしてきた中で、住宅ローンの団信は何故1年のままなのでしょう。業界の慣習的なものが何かあるのでしょうか。

理由を知るため、銀行やフラット35の住宅金融支援機構、団信の引き受けを行っている保険会社、生命保険協会などに話を聞きました。銀行や住宅金融支援機構では、案の定、団信の引受けをしている保険会社で聞いてほしいとの回答。「金融庁から団信の認可を受けているのは生保会社のため」とのことでした。

団信の引受けもしている保険会社や生命保険協会の話では、「あくまでも推測」としながら、「団信加入者を母集団とするデータで見て、免責を延ばす必要がないからではないか」とのことでした。つまり、死亡保険のように自分が抱えた債務を相殺する目的での自殺は、住宅ローンに関しては少ないのではないか、 という見解です。

生命保険会社では団信加入者だけのデータかそれに近いものを持っていると思われ、その死亡率などを見て団体信用生命保険を作り、金融庁の認可を取っているはずです。もしも、団信において、前述の「13ヶ月目の自殺」の傾向が見られたり、あるいは、住宅ローン発売後に「13ヶ月目の自殺」が増える動きが見られた場合は、免責期間を1年のままにはしないでしょう。

そうしたこともなく、ずっと1年のままであるということは、一般の生命保険と違って、団信の場合は「自殺を考えて団信に加入する」という行動はとらない、ということが言えるのでしょう。考えてみれば至極当然のことですね。

抱えてしまった借金を保険金で返すために保険に入る行動をとる人はいても、抱えてしまった借金を保険金で返すために家を買うという行動には進みません。というより、進めない可能性が大です。借金があったら、住宅ローンは組めないですから! 冷静に考えれば、答えは明らかだったわけです。

ちなみに、告知義務違反を犯して、たとえば鬱病等の病歴を隠して団信を契約した場合、自殺をしたのが自殺免責の1年経過後だったとしても、債務が清算されない可能性もあるようです。告知義務違反だったことがわかると、鬱病などの場合は自殺自体が「病気による死」と見られる可能性もあるからです。告知義務違反の時効は2年ですが、悪質とみられると2年経過後も保険が無効になる場合もあるという点も書き添えておきます。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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