損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン日本興亜)は、3月22日、介護による従業員の離職を防止することを多面的に支援する、『介護サポートプラン』を販売すると発表しました。
→ //www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2015/20160322_2.pdf
『介護サポートプラン』は、いわば企業の福利厚生制度のひとつと位置づけられます。
つまり、損保ジャパン日本興亜が提供する団体医療保険を導入した企業に対して、「保険による補償(親が一定の介護状態となったときに保険金による金銭の給付)」、「従業員向けサービス(介護サービス事業者の紹介)」、「企業向けサービス(企業が主体となって行う従業員への情報提供支援)」の3つの側面が一体となって、従業員と企業を支援するものです。
介護離職は個人にとっても企業にとってもダメージ大
わが国では、高齢化とあいまって介護が必要な人が年々増加しています。就業している人の親族が要介護状態となり、そのための介護や看護を原因とする「介護離職者」が、現在年間約10万人に達しています。その中の女性の比率は80%を超えています。さらに離職した人のうち、80%を越える人がその後仕事に就いていない実態もあります。個人にとって、親族の介護による経済的なダメージは、非常に大きいものとなることがわかります。
親族のうち、親の介護に直面する企業の従業員は40~50代が多く、企業経営の中枢を担う人も多いことから、介護離職は企業にとっても切実な問題です。介護離職による優秀な人材の流出を防止することは、いまや企業のリスクマネジメントのひとつであると言えます。
平成19年10月~20年9月 | 平成20年10月~21年9月 | 平成21年10月~22年9月 | 平成22年10月~23年9月 | 平成23年10月~24年9月 | |
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総数 | 88.5 | 81.9 | 98.6 | 84.2 | 101.1(83.3) |
男 | 17.1 | 16.1 | 20.9 | 18.4 | 19.9(16.5) |
女 | 71.5 | 65.7 | 77.7 | 65.9 | 81.2(66.8) |
女性の比率 | 80.8% | 80.2% | 78.8% | 78.3% | 80.3% |
※平成23年10月~24年9月の( )内は離職後無業者。
※平成24年就業構造基本調査(総務省)をもとに作成。
保険会社が3つの側面から従業員と企業をサポート
『介護サポートプラン』の内容は、以下のような構成となっています。
(1)保険による補償
企業が従業員向けに、「団体医療保険」の制度を導入しているケースがあります。保険料負担者は従業員で、従業員が入院したり手術を受けたりした場合に、一定の給付金が支払われるものです。団体保険ですので、企業ごとに補償内容が異なっています。その企業に勤務していない人は加入することはできません(退職者は要件を満たすことにより、加入できる場合があります)。
この保険商品に、従業員の親が一定の介護状態となった場合、一時金を支払うという特約を付保できるものがあります。この商品では、親(被保険者)が公的介護保険の要介護状態2以上の状態となった場合、最高で300万円が支払われるものとなっています。親の介護により、収入が減少した場合の所得補償や、負担すべき介護費用に充当することができます。
(2)介護事業者の優待割引で紹介(従業員向けサービス)
損保ジャパン日本興亜のグループ会社の介護サービス事業者を、優待条件で紹介するサービスです。サービス会社の介護関連事業は、家事代行、配食サービス、見守りサービス、リフォームサービス、優良老人ホームなどがあります。
(3)情報提供(企業向けサービス)
将来の介護に不安を抱える従業員や、仕事と介護の両立に直面している従業員に対して、セミナーを通じて情報提供を行うものです。費用は15万円で、保険制度導入の有無にかかわらず利用可能です。テーマは、介護離職の現状・介護が必要となるきっかけ・仕事と介護を両立するための事前準備・早期発見早期対応の介護予防・職場とじょうずに付き合う方法などです。
介護を行う人に対しては国も支援
親族に要介護者が発生したときに備え、まず国の支援について把握しておきましょう。
一定の親族を介護している場合には、法定の休業制度と、その経済的な損失をカバーする法定給付の制度があります。
(1)介護休業
2週間以上にわたり常時介護を必要とする家族を介護するために、取得できる休業制度です。事業所の就業規則・事業主の許可の有無に関係なく、事業主に申し出ることにより取得することができます。取得する人は雇用期間が1年以上であることなどの条件が必要です。
対象となる家族は、事実婚を含む配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹及び孫で、1人につき、一の要介護状態ごとに1回、通算93日まで取得できます。休業期間中、無給としてもかまいません。
(2)介護休業給付
介護休業を取得した人が、休業開始前2年間に賃金支払基礎日数(基本給が支給された日数)が11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合が給付の対象です。介護休業期間中の1ヵ月ごとに、休業開始前の1ヵ月あたりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないことなどの要件を満たせば、1ヵ月に「休業開始時賃金日額×支給日数×40%」の給付があります。ただし、170,520円が上限です(平成28年5月1日現在)。
企業福祉による介護支援は「労働条件への配慮」と「法定外の福利厚生制度」
次に、国の制度を補完する企業福祉制度による介護支援です。そのメニューとしては、「労働条件への配慮」と「法定外の福利厚生制度」の2つの側面が考えられます。
「労働条件への配慮」は、勤務地の限定、短時間勤務、フレックスタイムなどがあげられます。最近では在宅勤務を導入する企業も出てきました。
「法定外の福利厚生制度」は、介護休業給付の上乗せ給付、介護相談窓口の開設、介護サービス業者など従業員への情報提供、介護関連費用の補助などがあげられます。『介護サポートプラン』は、介護の補償にかかる金銭の給付を自助努力で行う仕組みを提供しつつ、介護に関する情報提供や実行援助を行う「福利厚生制度」ととらえることができると思います。
課題は中小・零細企業の従業員への介護離職支援
最近、前記のように、親の介護を特約で補償する団体医療保険を導入する企業が増えてきました。従来からある介護保険で親の介護に関する補償を行おうとしても、加入できる年齢が制限されていたり、販売を停止している保険会社があるなど、適当な商品が見つからないというケースが少なくありませんでした。このような欠点が改善されつつあると言えます。
損保ジャパン日本興亜の例のように、保険会社と企業が一体となって「福利厚生制度」として介護支援を推進すれば、その実効性をさらに高めることができるでしょう。ただし、その前提として、前記のような「労働条件の配慮」は不可欠あると考えます。
この種の保険商品の募集対象は、主に大手企業の従業員です。中小・零細企業の従業員は、この保険商品を享受することは困難ですし、「労働条件への配慮」の制度も現実問題として難しいと考えられます。このサービスを本当に必要としているのは、中小・零細企業とその従業員ではないかと思います。彼らに対して介護離職を防止する福利厚生制度を享受できるような枠組みを提供していくことも、大きな課題です。