自動運転技術が変える自動車保険の未来

 損害保険ジャパン日本興亜株式会社(損害保険ジャパン)は、2017年2月27日、自動車保険において「被害者救済費用特約」を新設し、2017年7月から提供を開始する、と発表しました。

 これは、自動車の自動運転技術やコネクテッドカー(インターネット回線と接続し、ICT端末としての機能を有する自動車)の普及に対応するため、自動車保険の商品改定を行ったものです。この特約については、東京海上日動火災保険株式会社が同種の補償を行うことを先駆けて発表しており、2017年4月からサービスを開始します。

 このような自動車に関する技術の進歩に対応して、新しいタイプの自動車保険が登場してきました。

目次

自動運転技術の現状はどうなっているのか

 自動車の自動運転技術は、交通事故の削減、特に高齢者に対する交通手段の確保、道路渋滞の緩和、環境負荷の軽減、運輸業等における人手不足の解消、などの点で大きく寄与することが期待されています。

 アメリカの運輸省高速道路交通安全局が制定した自動運転技術の水準のレベルをもとに、現在わが国で考えられている自動運転のレベルは、次の通り考えられています。

  • レベル1:アクセル・ハンドル・ブレーキの操作のいずれかをシステムが行う。
  • レベル2:アクセル・ハンドル・ブレーキの操作のうち、複数の操作をシステムが一度に行う。
  • レベル3:アクセル・ハンドル・ブレーキの操作のすべてをシステムが行い、緊急時などでシステムが要請した時のみドライバーが対応し手動運転。
  • レベル4:アクセル・ハンドル・ブレーキの操作のすべてをシステムが行い、ドライバーは全く関与しない完全な自動運転。

 現在わが国で販売されている自動運転機能が搭載された自動車は、日産のセレナに代表されるもので、レベル2が最高です。

自動運転車のドライバーの責任はどうなっているのか

 現在販売されている自動運転車が行うことができる「レベル2」のシステムは、基本的に高速道路などの自動車専用道路で、自動車の速度と自動車同士の間隔を設定し、道路の中心をキープして走行するものです。ただし、わき見運転や居眠り運転での危険を回避するものではなく、あくまでも緊急時の対応はドライバーが行う必要があります。

 つまり、レベル2では法律上、安全運転や事故回避など自動車の運転に関する責任はドライバーにあるとされているのです。ハンドルを握る以上は、特に人身事故についてはドライバーに全く過失がなかったなどを立証できない限り、必ず法律上の損害賠償責任を負います。したがって、自動車保険については、通常従来の自賠責保険や任意の自動車保険による補償内容で、相手に対する損害賠償責任をカバーすることができます。

 「レベル3」までの自動運転技術であれば、自動車事故による損害賠償責任については、ドライバーが運転に関与している際のものであれば、基本的に現状の自動車保険でカバーされると考えられています。

自動運転機能が関連する自動車事故での問題点は?

 しかし、自動運転機能が普及し発展していくと、自動運転車特有の交通事故が起こることが考えられます。そしてその自動車による事故によって、相手の身体または財産に損害を与えることになります。その事故について、

  • 自動運転機能について欠陥があり自動車が誤作動してしまった
  • ソフトウエア事業者による車両システムに欠陥があった
  • 不正アクセスがあった

 など、ドライバー以外の原因で発生する可能性があります。

 その場合、損害賠償責任の所在が確定しないことや、その確定に莫大な手間と時間を要するケースが想定されます。その結果被害者の損害についていつまでも補償がなされず、事故の円満な解決に大きな支障となってしまいます。

特約の新設でドライバーに賠償責任がないケースでも保険金が支払われる

 そこで、自動運転車のドライバーに法律上の損害賠償責任がなかったことが確定したときに、冒頭で紹介した被害者に生じた損害について被保険者が負担した費用を支払う「被害者救済費用特約」が新設されたのです。

 この特約は被害者救済の性質が強いと言えます。つまり、ドライバー以外の賠償義務者が確定する間、被害者の損害額を一時立て替えるわけです。損害保険会社が保険金を支払った後に、本来の賠償義務者に対してその金額を請求することになります。

 これらに対する追加保険料はかかりません。また、この特約で保険金が支払われることになった場合でも、その後契約を同じ内容で継続する際に等級には影響せず、保険料はアップしません。

自動運転技術が開く新しいステージ

 今後、自動運転技術が向上すれば、ドライバーの関与が相対的に減少していくことでしょう。その流れは、私たちに「自動運転と損害賠償責任」という新しい法的な問題への対応が必要になってきたと言えます。特にドライバーに過失がなかったときでも、被害者への対応を適切に行うことで、事故の解決を迅速に行うことができるでしょう。

 今回の商品改定は、そのための資力を準備できるものとして注目に値するものです。自動運転技術の進歩にともなって、自動車保険の補償内容が、さらに大きく変化していくことが予想されます。今後の法整備も含めて、動向を見守っていきたいと思います。

参考

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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