小泉進次郎氏の「子ども保険」は真に公平な社会保障制度となりうるか?

2017年3月に小泉進次郎氏を中心とする「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、「子ども保険」~世代間公平のための新たなフレームワークの構築~を提言しました。 

子ども保険の提言は「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスク」を社会全体で支えるしくみで、年金・医療・介護に続く「全世代型社会保障」の第一歩と位置づけられる。高齢者向けの社会保険給付が急増する中で、一般会計の中で若者や現役世代に対する予算を大幅に増やすことはむずかしい。「全世代型社会保障」を実現するためにも、世代間公平のための新たなフレームワークが必要。

「子ども保険」が新たな社会保障制度として「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスク」を解消し、「世代間公平性」を保つ新たなフレームワークとなるか、私見ではありますが考えてみたいと思います。

目次

「子ども保険」の負担と給付は?

「子ども保険」は現状では税金で賄っている保育や幼児教育などの子育て支援を、年金や健康保険、介護保険と同じ「社会保障」という枠組みで行っていこうというものです。

保険料の負担者は事業者と勤労者、国民年金加入者です。会社員の場合は、現在の厚生年金保険料に労使0.1%ずつ上乗せする案となっています。厚生年金保険料は2004年10月より毎年9月に0.354%ずつ引き上げられ、今年9月以降は標準報酬月額と標準賞与に対し18.3%で固定されます。18.3%を労使折半で支払うため、それぞれの負担は9.15%で固定される予定です。子ども保険が創設されると、この料率に0.1%ずつ上乗せされることになるため、事業者と勤労者の保険料負担は9.25%となります。

具体的に標準報酬月額と標準賞与額の年間の合計額が200万円の人と1,000万円の人で負担額を比べてみましょう。「子ども保険」の創設で合計額が200万円の人は18.3万円から18.5万円となり2,000円の負担増、合計額1,000万円の人は91.5万円から92.5万円に1万円の負担増となります。いずれも収入に対する負担割合が一定であるため、消費税のように低所得者ほど負担が重くなる逆進性はない、とされています。

しかし、実際には標準報酬月額は31等級の62万円、標準賞与額は1回に150万円が上限となっているため、年収でおよそ1,000万円を超えると保険料が増えない仕組みとなっています。このことから、年収およそ1,000万円までは逆進性はありませんが、それ以上の収入がある人の負担割合は小さくなります。

自営業者等の国民年金加入者は月160円の負担増となっていますが、無職者であれ学生であれ原則20歳から60歳未満の国民全員が対象者です。保険料の負担は所得に関係なく平成29年度で年間一律19万7,880円です。「子ども保険」創設で逆進性がないのは会社員だけで、自営業者などの国民年金加入者は保険料免除等の制度はあるものの、無職でも年収1,000万円でも同額の保険料負担となります。

財源の使い道としては、当初は現在の児童手当に毎月5,000円を「子ども保険給付金」として上乗せする案と、子育て支援策の安定財源として確保する案の2案が出ています。また、介護医療改革を進めれば、より子ども保険を拡充することができるとしています。

下表に医療介護改革前と改革後の子ども保険の内容についてまとめましたので、負担と使い道についてご確認ください。

医療介護改革前

 事業者と勤労者自営業者等財源規模
保険料の負担保険料率0.2%(事業者と勤労者0.1%ずつ厚生年金保険料に付加)月160円の負担(国民年金加入者)約3,400億円
財源の使い道1案:幼児教育・保育の実質無償化への第一歩 小学校就学前の児童全員(約600万人)に子ども保険給付金として月5千円(年間で6万円)を児童手当に上乗せ支給。 2案:待機児童解消加速化プラン  消費税増税により確保済みの0.7兆円に上乗せして1兆円の子育て支援  の安定財源確保。

医療介護改革後子ども保険拡大の財源

 事業者と勤労者自営業者等財源規模
保険料の負担保険料率1%(事業者と勤労者0.5%ずつ厚生年金保険料に付加)月830円の負担(国民年金加入者)約1.7兆円
財源の使い道未就学児の児童手当を抜本拡充 小学校就学前の児童全員(約600万人)に子ども保険給付金として月2.5万円(年間で30万円)を児童手当に上乗せ支給。児童手当とあわせて就学前の幼児教育・保育を実質無償化。

また、教育無償化の財源としの教育国債の発行については、将来世代の負担の先送りにすぎないとされています。

子ども保険は真に公平な制度になり得るか

提言では、「子ども保険」は「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支える全世代型社会保険の第一歩」と記されていますが、本当に全世代型の制度となるのでしょうか?

すでに記した通り、「子ども保険」の負担は現役世代の厚生年金や国民保険の加入者です。高齢者の保険料負担は厚生年金に加入して働いている人以外はありません。また、所得に応じた負担という面でも、逆進性はないと言いながら、一定の所得を超えると厚生年金保険料は頭打ちとなるため、結局高所得者の負担割合は低くなります。また、国民年金加入者の場合はそもそも所得に関係なく一律の保険料、一律の負担額となるため低所得者の負担割合が大きくなります。

さらに、世代、所得以外でも働く世代間での不公平感も増す可能性があります。同じ世代でも単身者や子どもがいない夫婦、すでに子どもが学齢期となっている世帯では「子ども保険」の恩恵を受けることができません。産休、育休、時短といった制度を使いながら子育てをする社員がいる職場では、人員の補充もなく、同僚が仕事のフォローを続けているケースがほとんどです。子育て中の社員の仕事をフォローした上に、「子ども保険」の保険料負担が増えると、同じ職場間での不公平感が増す可能性もあります。

社会全体で子どもの保育や幼児教育を受けられないリスクを支えるのであれば、子育て中の世帯だけに給付金や支援をするのではなく、産休、育休、時短社員のフォローをする人を支えるための仕組みにもお金を出してほしいと思います。たとえば、育休中の社員の人員補充のための補助金を事業者に出すことで、仕事をフォローする側だけでなく、子どもを産む側の心の負担も軽くなると思います。安心して仕事を任せられる人員補充があることで、同僚に気を使うことなく子育てをより楽しむこともでき、前向きな気持ちで会社に復帰できるのではないでしょうか。

「子ども保険」の提言で課題解消のきっかけに

さまざま課題がある今回の提言ですが、保育や幼児教育の問題を考えるきっかけになれば社会的意義があると思います。将来の社会保障を支える「社会資源としての子どもの減少」というリスクに備えるために、子育てを社会で負担しなければいけないことに異論がある人はいないでしょう。

しかし、その負担は社会保障という新しいフレームワークで行うのか、高齢者を含めた全世代が負担する税金で行うのか、それとも子ども国債という借金で行うのか、まだまだ議論の余地があります。さらに、負担の世代間格差、所得格差をどうなくすのか、同じ世代間でも子どもがいる世帯と単身者やいない世帯との不公平感をどうなくすのかといった議論もまだまだ必要です。

負担だけでなく、財源の使い道についても給付金で保育料、幼児教育料を無償化することが良いのか、それとも保育園や保育士、幼稚園教諭などの社会資源を増やすために使うのか、産休、育休を取りやすくするための人員補充の資金に充てるのか、さまざまな視点が必要です。

今回の提言を議論のきっかけとし、将来の日本を担う人材としての子どもを産み、育てやすい環境の第一歩に役立ててほしいと思います。

参考

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この記事を書いた人

有限会社ヒューマン・マエストロ取締役。大学卒業後、地方銀行にて融資業務担当。結婚、出産後7年間の子育て専業主婦。その後、住宅販売、損保会社、都市銀行の住宅ローン窓口を経て独立。現在は中央線を中心に活動する女性FPグループ「なでしこFPサロン」のメンバーとともに、さまざまな専門分野を持つFP・士業と連携しながら、お客様の悩みをワンストップで解決することを目指している。身近なお金の問題に役立つ講演・執筆多数。

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