衆議院選挙で決まる?どうなる幼児教育無償化の財源

安倍政権が打ち出す幼児教育無償化の方針。最大の問題は財源をどうするかでしたが、今回の衆議院議員選挙の結果次第で、この財源問題に終止符が打たれるはずです。

目次

幼児教育無償化とは?

 安倍政権ではかねてより、「3~5歳のすべての子どもの幼児教育・保育の費用を無償化する」という方針を打ち出していました。

現在、幼稚園は私立中心のため、月3万~5万円程かかりますが、自治体では補助を出す形でサポートをしています。一方、保育園は自治体によって異なりますが、所得によって保育料が決まり、所得が高い人ほど高く、低所得の人は低くなる仕組みです。自治体によっても異なりますが、所得や家族構成によって月2万~10万円程の負担になっています。ちなみに、これら幼稚園と保育園の費用に関して、すでに「2人目半額、3人目無料」という軽減策も導入されています。

この3~5歳の幼稚園・保育園の保育料を無償化・軽減する案が、政府の『人づくり革命』の中で検討されています(0~2歳の保育料も低所得世帯については無償化)。現在の案では所得に関わらず無料になる予定で、報道によると「政府試算で最大約1兆1,700億円かかる」とのこと。

こうした無償化の動きが起きてきた背景には、親の所得格差が広がる中、子の教育格差が拡大してきた問題があります。親の所得が伸び悩む中、高校無償化や大学の給付型奨学金制度の導入など、教育費の軽減が進んできたのも事実です。大学の給付型奨学金はまだ規模は小さいのですが、「優先的に進めるべきは幼児教育無償化か高等教育無償化か」といった議論もなされました。その中で、まずは幼児教育無償化から進める意向のようです。

幼児教育無償化のメリットと問題点

イギリスやフランスでは3歳以上の幼児教育が無償化されており、日本も同様に無償化を目指しているわけですが、そもそもなぜ「幼児教育」なのでしょう。

幼児教育は子どもの忍耐力や社会性、コミュニケーション能力などの発達につながり、その後の人生に大きく影響すると考えられています。低所得層の子を約40年間追跡調査し、幼児教育を受けた子と受けなかった子を比較したところ、受けた子の方が高校卒業率や所得が高くなり、生活保護受給率や非行に走る割合が低くなるという研究もあります(シカゴ大ジェームズ・ヘックマン教授)。

すでに日本は幼児教育無償化に向けて進んでいるわけですが、そのメリットや問題点を整理しておきます。まず、メリットとしては次のような点が挙げられるのではないでしょうか。

<メリット>

  • 幼児期の家庭の経済的負担が軽くなる
  • 所得が低くて幼稚園や保育園に通えなかった子が通えるようになる
  • 所得が高い世帯は保育料を習い事などに充てることで幼児教育がさらに進む
  • 無償化で幼児教育の機会が与えられた子が将来よい人生を送れる可能性が高まる
  • 保育の負担が減れば育児と仕事の両立を図りやすくなり女性が働きやすくなる
  • 結果として少子化対策になる

 

一方、問題点も挙げられます。

<問題点>

  • 首都圏での待機児童は改善のメドが立たず、無償化されても保育園に入れない
  • 財源はどうなる?

所得が高い世帯も無償化の対象なので、習い事を増やすことで教育格差がむしろ広がるという問題点を挙げる人もいます。ですが、それは全体の教育水準が上がることになることから、メリットの方に入れました。

また、5歳児に限れば、幼稚園・保育園に通っていないのは約2%程度。その子に幼児教育を与えるために、全員の無償化が必要なのか?という疑問の声もあります。

財源問題はどうなる?

さて、最大の問題は財源です。これまで、幼児教育無償化の財源として挙げられていたのは、教育国債(赤字国債)を発行して充てる、小泉進次郎議員が提唱する「こども保険」でまかなう、2019年10月に予定されている消費税増税分の一部を充てる、の3つでした。

この中で、社会保険料に上乗せ徴収(労使とも各0.1~1%)して財源を捻出する「こども保険」構想は、活発に議論されマスコミでも取り上げられていました。実現すれば、未就学児の児童手当にこども保険給付金が加算され、それによって保育料を無償化、あるいは軽減するという制度でした。

しかし、経済界の反発もあって難しいと判断したのでしょう。安倍総理は、消費税率引上げによる増加分のうち約2兆円を『人づくり革命』(幼児教育無償化を含む)などに充てる」ことを打ち出し、その信を「国民に問う」ことを掲げて衆議院を解散しました。つまり、今回の衆議院選では、消費税増税分を幼児教育無償化に充てていいかどうか、国民は答えを求められているのです。

このコラムがアップされた翌々日が衆議院選挙ですので、すぐに結論が出てしまいますが、安倍政権が続投となれば、幼児教育無償化の財源問題に答えが出ます。つまり、消費税増税分から捻出をするということです。

消費税が8%⇒10%へアップすると、増収分は約5兆円見込まれています。うち、1兆円は社会保障の充実に使われ、残り4兆円は財政赤字の削減のために使われることになっていました。しかし政府は、財政再建を後回しにする形で、4兆円のうち半分の2兆円程度を幼児教育無償化や高等教育の負担軽減に使いたいというのです。これによって、2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという目標は一歩後退となります。

選挙で自民党が敗北すればこの案は否定されます。その場合、幼児教育無償化自体もどうなるかわかりません…。

消費税財源なら別の問題も

仮に、選挙の結果、消費税の一部を財源にすることになったとします。実はこの後にもハードルが待っています。幼児教育無償化は2019年度から始める予定だそうですが、消費税増税は2019年10月。半年のブランクがあるのです。

その間の資金がないと、幼児教育無償化は実現できません。時期を先送りするか、節約で捻出した資金で小規模でスタートさせるか(最初は5歳だけなど)、あるいはその間のつなぎとして短期の赤字国債を発行するか…。やはり財源問題はすっきりとはいかないようです。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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