「職場つみたてNISA」は福利厚生制度の起爆剤となるか

以下は、昨年10月20日に金融庁から出された報道発表資料で、金融庁が同省職員向けの福利厚生制度として、「職場つみたてNISA」を導入するとしたものです。今年1月からスタートした「つみたてNISA」を活用したもので、勤労者の資産形成の手段として注目を浴びているものです。

《要約》来年(2018年)1月より、つみたてNISAの買付けが可能となります。この制度のスタートを契機として、これまで投資を行ってこなかった方々にも資産形成を進めていただけるよう、投資を開始するきっかけが身近な場で得られるような環境を整えることが望ましいと考えております。 このため、他省庁・地方自治体や、さらには民間企業における普及も視野に、まずは金融庁において、「職場つみたてNISA」を導入することに致しました。

目次

最初の職場『積立』NISAは2015年にスタート

企業の役職員の自助努力による資産形成を支援するため、役職員の給与から天引きなどのしくみを使って、NISA口座で投資信託等を活用した積立を行う福利厚生制度が2015年からスタートしました。

ここでいうNISA口座は、成年者が利用できる「従来のNISA」の制度の口座で、2023年までの期間を区切った制度です。これは、その年の新規投資金額120万円までの少額の株式や投資信託商品などによる投資について、そこから発生する譲渡益や配当による所得について非課税とする制度です。非課税期間は5年ですが、2023年までの間に期間が満了したものは、1度だけ更新することができます(ロール・オーバー)。

留意していいただきたいのは、「従来のNISA」を活用した職場の制度は「つみたて」ではなく、「積立」と漢字を使うことが一般的のようです。後述の職場「つみたて」NISAとは、NISAの制度として異なるものを活用しているので、注意が必要です。

職場積立NISAにはガイドラインが定められている

通常のNISAは証券会社や銀行などの金融機関と直接契約して利用するものです。 一方、職場積立NISAは、企業の福利厚生制度なので、企業で契約することになります。積立は利用者の個人の口座から振替によるもののほか、企業によっては給与天引きで定時定額の積立によることができます。

職場積立NISAは金融庁から運営に関するガイドラインが出ており、そのひとつとして、制度申込時の投資教育や、その後の投資アドバイスを実施することをNISA取扱い業者の責務としています。

同様に運営に関するガイドラインで、企業が役職員に対して奨励金を支給することが認められています。例えば「積立額の5%で年間3万円を上限」、などです。これは企業の役職員にとっては給与として課税の対象となります。奨励金を付与する場合には、積立金の引き出し事由については、住宅の取得、子どもの教育など一定の制限を設けられていることがあります。

積立による投資でリスクを抑える

職場積立NISAは、定時定額で投資信託を購入していく「ドルコスト平均法」を活用することになります。したがって、値動きを抑えつつ、預貯金では困難な収益を長期間かけて確保したい人に適した制度です。毎月の積立を行うので、投資するタイミングに神経質にならなくてもよい点も特徴です。むしろ相場が低迷しているときのほうが、同じ金額で多くの「口数」を購入できるので、将来相場が上昇した際に大きな収益が得られることを期待できます。言うまでもありませんが、株式や投資信託商品は元本の保証はなく、価格変動などのリスクは投資家自身が負うことになります。

導入状況はどうなっている?

職場積立NISAの導入状況は以下の通りとなっています(NISA推進・連絡協議会資料から抜粋)。導入企業数や積立金額はかなりのスピードで伸びています。

■導入企業数の推移
 企業数(うち給与天引きの制度がある企業数)
2015年12月末時点1,268( 91)
2016年 6月末時点2,856(138)
2016年12月末時点4,190(193)
2017年 6月末時点6,002(223)
■積立金額の合計の推移
 積立金額(単位:万円)
2015年7月~12月の合計10,998
2016年1月~6月の合計34,894
2016年7月~12月の合計52,191
2017年1月~6月の合計89,108

つみたてNISAのポイント

今年の1月から、「つみたてNISA」の制度が、「従来のNISA」の制度に新たに加わりました。新しく導入された制度は、一般的に「積立」ではなく「つみたて」とひらがなで表記されます。つみたてNISAの制度内容のポイントを見ていきましょう。

(1)非課税での投資額累計額は拡大

みたてNISAは、国内に居住する20歳以上の人が対象です。新規で行うことができる非課税投資金額は、年間40万円です。従来のNISAと比較して年間の非課税投資金額の上限が小さくなった反面、投資した年から最長20年間非課税で運用できることになりました。したがって、累計では年間40万円×20年=最大800万円を、運用収益非課税で投資することができます。新規で投資できる期間は、2018年1月から2037年12月末までの20年間にわたる各年です。 

(2)活用にあたっての留意点  

従来のNISAにおける非課税投資枠とつみたてNISAの非課税投資枠は、併せて利用することはできず、その年ごとにいずれかを選択することになります。そして、従来のNISAで認められていた、非課税期間終了後に運用期間を延長する「ロール・オーバー」の制度は、つみたてNISAにはありません。

従来のNISAと同様に、以下の取り扱いに注意してください。

  • 非課税投資期間内の途中売却は自由であるが、非課税投資枠を使った後に、当該枠が少なくなった部分で再投資することは不可。
  • つみたてNISA口座で発生した譲渡損失と、それ以外の口座(特定口座や一般口座)で生じた配当・譲渡益とを損益通算・繰越控除することは不可。

(3)提供される商品の基準は国が決めている

  • 信託契約期間が無期限または20年以上であること。
  • 価格・金利・為替相場などから生じるリスクを減少させる目的を除いて、デリバティブ取引を行わないこと。
  • 収益の分配は、1ヶ月以下の期間ごとに行わないこと(「毎月分配型」は対象外)。
  • ETF以外の投資信託は、購入時の手数料が無料(いわゆるノーロード)であること。
  • 運用にかかる費用(信託報酬)は、商品ごとに一定以下であること。

職場つみたてNISAに期待すること

冒頭に述べた通り、「職場つみたてNISA」は、つみたてNISAを活用した金融庁における福利厚生制度として、国民の先頭を切る形で役職員が利用を開始しました。

つみたてNISA自体は20歳以上の国内居住者であればだれでも活用できますが、「職場つみたてNISA」は、導入企業に勤務する役職員しか活用できません。長期投資に適した運用商品がピックアップされていますので、商品選びが苦手な人も選択しやすいと思われます。その制度において前述の奨励金が付与されるものであれば、長期的な資産形成として有効に機能すると思われます。

ただし、提携する金融機関が限定されているので、自分が選択したい投資信託商品やサービスが利用できない可能性があります。商品を提供する金融機関も、系列の商品にとどまらず、従業員の利益に資する商品を選定して、「顧客本位の業務運営の関する原則(フィデューシャリーデューティー)」を実現してもらいたいものです。

企業の福利厚生制度における財産形成制度としては、従来から財形貯蓄制度や拠出型企業年金(団体年金)が主流でした。昨今の低金利でこれらの金融商品の魅力が薄れてきた現状で、職場つみたてNISAは、それらの代替となる制度として、従業員の資産形成に寄与していくことが期待されます。

参考

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

目次
閉じる