2019年1月22日、首都圏で有料老人ホームを運営する未来設計株式会社が民事再生法の適用を申請しました。実質上の経営破たんです。
老人ホームの入居一時金、26億円消える 買収で発覚
《要約》首都圏で有料老人ホーム「未来倶楽部」など37施設を運営する未来設計は、毎年3億円前後の創業者への役員報酬支払いなどで財務状態が悪化。入居者から預かっていた「入居一時金」を運転資金に回すなどしてきたが、1月22日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。
未来倶楽部を信じて終の棲家と決め、高額な入居金を支払って入居された高齢者の方、介護するご家族の方にとっては信じられない衝撃です。老人ホームの運営会社が経営破たんしたらどのようなことが起きるのか、どうしたら防衛できるのか、この事件を機に考えてみたいと思います。
老人ホームの料金体系と入居一時金の償却
有料老人のホームには、介護を目的とした介護付き有料老人ホームと、介護は外部の事業者と契約をして在宅介護を行う住宅型有料老人ホームの大きく2種類があります。破たんした未来設計は介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームを運営していました。
有料老人ホームに支払う費用は、入居時にかかる一時金と月々にかかる費用があります。
たとえば、未来倶楽部府中の料金を見ると基本プランは以下のようになっています。
- 前払い金(入居時に支払う一時金)480万円
- 月々の料金(消費税別)184,500円
管理費 (共用施設の維持管理・事務管理部門の人件費等) | 124,500円 |
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食費 (食材費・水光熱費・人件費等) | 60,000円 |
このうち前払い金は、一定期間の家賃を前払いしてもらう老人ホーム独特の料金体系です。想定される平均の入居期間から施設が前払い金を設定します。介護付き有料老人ホームの場合は想定入居期間5年程度が多いようですが、元気な方が入る入居時自立型では想定入居期間を10年以上に設定して高額な一時金を支払うホームもあります。また、ホームによっては一時金を支払わなくてもよい支払方法もありますが、その場合の家賃は月額料金に加算されるため、毎月の費用が高額になることもあります。
入居時一時金は、想定した入居期間より前に退去すると、一定の金額が利用者に返還されます。一般的には1日でも入居した場合一時金の30%は償却されて、残りの額を入居期間に応じて返還します。未来倶楽部府中の場合で計算すると、1日でも入居すれば480万円中144万円が償却され、366万円が手元に戻ります。また、想定される入居期間は5年となっていれば、5年以内に退去すると366万円を1日単位で割った金額が返還されます。たとえば、入居して1年後に退去した場合、366万円×365日÷1,826日で約73万円が償却され、293万円が返還されます。
破たんしたらどうなる?
家賃の前払い金は、保証金のように安全な資産でプールしておくことが法律で決められています。想定された期間前に退去する入居者がいればお金を返さなくてはならないのですから当然のことです。しかし、今回の未来倶楽部の事件では、入居者からの前払い金を創業者の報酬や贅沢のために充ててしまい、結果経営破たんという事態になってしまいました。
これでは、短期間の入居で退去しても前払い金は戻ってきません。実際に、想定期間前に退去され、2018年12月が前払い金の返還期限だった元入居者のご家族から、対面での説明もなく、突然2019年2月末まで返還を待ってほしいという文書が送られてきたというお話を聞きました。未だ返還されたという話は聞いておらず、破たんしてしまえば前払い金が戻ってくる可能性は低くなってしまいます。これでは次の入居先を探そうにも、数百万円というお金が戻らないのですから、希望の老人ホームに入所できず、最悪の場合ご家族が仕事を辞めて在宅介護を続けなくてはならなくなってしまいます。入所者ご本人のライフプランだけでなく、ご家族のライフプランまで大きく変えてしまうような事態です。杜撰な経営によって何も悪くない一般の生活者の方の人生がくるってしまうのは、本当に悲しいことです。
また、現在入居中の方も、今後のサービスに影響が出ないのか、住み続けられるのか大変不安な中で過ごさなくてはなりません。未来倶楽部は昨年7月に持株会社を買収した創生事業団が事業を承継することになりました。経営をしっかりと立て直して、入居者やそのご家族を守っていただきたいものです。
経営難の予兆は?
未来倶楽部は以前、親切な介護で看取りまで行ってくれたなど、親御さんを入所させていたご家族から評判の良いホームでした。現場で働いている方たちは、本当に真摯に入居者に向き合っていたのではないかと思います。
優良な老人ホームが経営難になっていく場合、その予兆はあるのでしょうか。実際に経営難になった老人ホームにご家族が入所していた、また、そうしたホームで働いていたという方からお聞きしたことをまとめてみました。
- 食事の質が落ちてきた。介護食がチューブ食になった。
- 食事介助などゆっくり行う時間がなく、急いで食べさせるため食欲が落ちてやせてしまった。
- 職員の入れ替わりが激しくなった。集団でやめてしまう。施設長や担当のケアマネなど引き継ぎもなく辞めてしまって困った。
- 施設内を職員がいつも走り回るようになった。
ほんの一例ですが、経営難で働く方たちの待遇が悪くなればおのずとサービスは落ちていきます。どんなに一生懸命仕事に向き合っても介護する方も人間ですから限界があります。こうしたことが続いて事件や事故にならないことを祈るのみです。
破たんしにくい運営会社を選ぶポイント
では老人ホームを選ぶとき、破たんしない事業者を選ぶにはどうしたらよいのでしょう。3つのポイントをお伝えします。
運営会社の母体を確認する
老人ホームの運営会社は介護事業を専門に行っている会社だけでなく、大手不動産会社や保険会社、教育関連会社などさまざまな業種から参入しています。入所を検討する老人ホームの運営母体、親会社などはホームページで調べられます。必ずチェックし、できればその会社の財務状況を確認しておきましょう。
ただし、最近では大企業が介護事業に参入し、老人ホームを買い取る例もあります。逆に経営母体が大きいからといって安心していると、親会社が介護事業から撤退してしまうこともあります。外食産業のワタミの経営が悪化して、運営していた老人ホームを損保ケアに売却したことは皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。
経営破たんとまではいかなくても、運営会社が変わることはよくあります。運営会社が変われば経営方針や理念が変わり、サービスの質が変わってしまうこともあります。仕方がないこととはいえ、選んで入居したホームであれば、当初の経営理念やサービスも受け継いでほしいところです。
運営会社の例 | 特徴 |
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保険会社 | 地域に根付いた老人ホームをM&Aで買い取るなどして展開など。高級老人ホームに特化している会社も多い。 |
塾・教育産業系 | 子どもの教育を手掛けてきた会社が少子化を見越してか老人ホームの運営に参入している |
ハウスメーカー・建設会社・不動産会社等 | 地主さんへの土地活として建物建設を提案。サービスは介護事業者が行う。大手は自社で建設・介護事業を行うことも。介護やホテルライクなサービスに定評がある事業者もある。 |
介護事業者 | 介護事業者が運営母体となっているホーム。介護に対するスキルやノウハウが整っている場合も多い。 |
社会福祉法人や医療法人 | 医療法人や社会福祉法人が運営母体となっている。医療との連携が手厚いホームもある。経営理念がはっきりしていることも多い。 |
地域密着で運営している事業者 | 地域の地主や建設会社などが運営しているホームもある。特徴を出して地域で信頼を得ている事業者もある。 |
設立から一定年数がたっているホームを選ぶ
新しい老人ホームは建物がきれいで、元気な入居者が多いのはよいのですが、サービスや経営状況については海のものとも山のものともわかりません。一定期間運営の実績がある事業者を選ぶのも一つの方法でしょう。また、新規オープンから年数がたっても空室が多いホームはなぜ空室なのか聞いておきましょう。誰もが入居したいと思うホームは空室が少ないものです。
職員の様子が穏やかで入れ替わりが少ない
経営状態が悪化すると人件費が削られ、労働条件が悪くなることもしばしばです。いくら高い志で働こうと思っても無理なシフトで過酷な労働条件となってしまえば、優秀な職員さんがどんどんやめていくことにもなりかねません。職員の勤続年数は職種ごとに重要事項説明書に記載されています。老人ホームの重要事項説明書は各都道府県の福祉保健局のホームページに開示されていますので、入居を検討するときには確認しておくとよいでしょう。
以上、未来設計の経営破たんから老人ホームを選ぶときのポイントを考えてみました。有料老人ホームは人生の最後の時を過ごす大切な住まいです。有料老人ホームが営業のために出しているパンフレットやホームページを見るだけでなく、重要事項説明書のような客観的な資料を確認したり、運営母体の財務状況を確認し、失敗しない老人ホーム選びをしてください。
参考
- 老人ホームの入居一時金、26億円消える 買収で発覚
https://www.asahi.com/articles/ASLDJ64R7LDJULFA00C.html