国内生保の再編の兆し?!日本生命の三井生命の買収で業界や経営効率はどうなる?

日本の保険会社の海外保険事業の買収が続いたかと思ったら、とうとうガリバーの日本生命が動きました。しかも、その買収対象は海外ではなく、国内で中堅だが、歴史のある三井生命。

実は、筆者が平成元年に新卒で総合職として入社したのが三井生命であり、当時5年間、お世話になった方が社長はじめ役員として名を連ねています。この買収の生保業界への影響や、両社の相乗効果、私たち契約者への影響やこれからの期待について以下、整理してみました。

日本生命:三井生命の買収発表 窓口販売の拡充が課題

生保業界のガリバーと言われてきた日本生命。最近、好調な第一生命への対抗策として、海外生保の買収ではなく、国内生保の三井生命の買収を発表した。
合併ではなく、三井の社名やブランドを残すことにも同意の上、国内のマーケットシェアを高めて安定させるための策を展開させていく模様。

日本生命にとっては、従来の営業職員体制から、三井のネットワークを使った銀行窓口販売などを取り込み、どれだけ相乗効果が出せるかが課題。
国内生保どうしの大型再編は、2004年の明治安田生命以来11年ぶり。

 

目次

国内に41社もある生保会社数は多すぎ!再編はこれからも進みそう!

2015年春の決算では、しばらく低迷していた株価の上昇など運用収益の改善もあり、契約者配当を増やす保険会社が続出しました。これは、生保会社の財政に余裕が出てきたことの表れでもあると思います。最近の国内生保による海外保険会社買収ニュースも「なるほど、そう来たか」と思って拝見していました。

今回の日本生命の三井生命買収は、海外ではなく、国内のマーケットシェアを重視している日本生命の戦略として、生保業界にとても影響を与えるニュースだと思います。

保険というのは、もともと契約者どうしの助け合いの仕組みなので、大勢の加入によって、その収益性が高まってきます。まさに「規模の経済」が働く典型的なビジネスモデルです。しかし、ふと見ると、国内で営業している生命保険会社は、現時点でなんと41社も存在しているのです(2015年7月現在、生命保険協会の加盟会社数より)。

中には、対象を団体などに特化しているために私たちが意識していない保険会社もありますが、金融庁の認可をとっている生保会社41社すべての状況や商品・サービスを網羅することは個人では不可能でしょう。私たちにとっても、信頼できる保険会社が厳選されて、その商品やサービスについてもっと特徴が明確になったほうが、納得して選びやすくなると思います。

つまり、利用者側から見ても保険会社の再編は自然の流れで、今回の国内生保の買収は、国内シェアを高めたい日本生命側と、今までなかなか実現しなかった嫁入り先がちょうど良く見つかった三井生命側の相互の狙いが一致した例といえるのではないでしょうか?
どう見ても41社は多いので、これがきっかけとなり、今後さらに国内生保の吸収や合併などが進んていくと思います。

日本生命と三井生命の決算内容から、単純に加算した概算を出すと?

以前、生保の決算比較については、「生保の決算!「基礎利益」や「保険金支払」から見える保険会社の実情と事業展開」で紹介しましたが、日本生命と第一生命の競争の中で、日本生命が三井生命を買収し、連結で一緒になると、どのように変わるのでしょうか?保険料収入などが単純に増えるのは当然でしょうが、質的にはどうなるのでしょうか?
まず、三井生命の決算をみて、私は驚きました。以下の表を見てわかるように、次の特徴があると思います。

2014年度決算(日本生命と三井生命、第一生命のHPより一部抜粋)

2014年度決算(日本生命と三井生命、第一生命のHPより一部抜粋)

  • 保険料等収入よりも保険金等支払金が多い
     (これは前年も同様の傾向。つまり過去からの保有契約からくる支払に比べて、保険料等収入が減っていることを指す)
  • 規模に対して資産運用収益が多い
    (保険料等収入を100とすると、資産運用収益は42%を占め、日本生命や第一生命より多い。以前から運用は比較的得意な分野)
  • 営業職員一人当たりの基礎利益(本業の儲け)は、大手2社(日生・第一)に大きく水をあけられている。
    (日本生命も第一生命も1200万円なのに対し、三井生命は800万円台と効率性が低い)

三井生命は、生保業界の中でも順位で一桁台の会社ですが、保険の営業基盤が弱いのを補うかのように資産運用で頑張ってきた会社だといえます。しかし、資産運用は、マーケットの影響を大きく受けるので、2015年春のように運用環境が改善したことが、嫁入りにはいいタイミングだったともいえるでしょう。

日本生命からみて三井生命は1割程度のボリュームにすぎないので、両社を単純加算した概算では、三井生命の特徴は薄まっていきます。ただし、「営業職員一人当たりの基礎利益」など、もともと良かった日本生命の効率指標が下がってしまうのは懸念されるポイントです。

ですから、日本生命にとっては、単純な保険料収入などの量的な数字で安住するのではなく、質的な価値を上げていく対策が何よりも重要となってくると思います。

驚くほど似ている2社の経営理念と、これから必要な工夫

私が入社した当初、三井生命は業界6位の中堅で「人の三井」と言われ、温厚な人が多く、人的ネットワークを大切にする風土がありました。その分ドラスティックな改革が遅れがちで、経営基盤が比較的弱いことが長年の課題でした。

ホームページに掲載してある経営理念にも、「~~盤石の経営基盤を確立し、会社永遠の発展を期する~」とあり、以下、国民・契約者・そして従業員の三者の向上が掲げられています。(以下、一部抜粋)

  1. 国民生活の福祉向上
  2. 契約者に対する最善の奉仕
  3. 従業員の能力発揮と社会生活の安定向上

ここで、3つ目に「従業員」に触れている点が、今回の買収で、「社内で、三井の社名やブランドにこだわっている」という体質と繋がってくるようです。

一方、日本生命は、経営理念の中に、大きく以下の5つ、

  1. 契約者への社会的保障責任
  2. 社会の福利増進
  3. 経営の生産性
  4. 全従業員の生活向上
  5. 業界の発展」

が明記され、独自の経営や業界の発展という視点も持ち合わせています。

まさに業界のリーディングカンパニーとしての自負があり、今までも同業他社との提携などはせずに、一匹狼的な戦略をとってきたことがわかります。しかし、グループ内にリテール窓口を持つ銀行や証券などの金融関連ネットワークが少なく、最近は、従来の営業職員体制に頼らないルートが課題になってきているといえます。

こうしてみると、両社の経営理念は非常に共通点があり、日本生命の経営理念の中に、三井生命の経営理念がすっぽり入ってくるように思います。この買収については、三井側の要求でもある「三井の名」が残るようなので、比較的スムーズに離陸できるのではないでしょうか?

あとは、「今後、どれだけ浸透して効果を出せるか?」しだいです。今までの延長のままくっついただけでは意味がありません。
保険に関する周辺環境の変化やお客様の受け入れ感覚にしっかり馴染むような営業スタイルを見い出したり、各商品のオリジナリティをどんどん発揮していくことが何より大事です。そして、そのうちに「三井」という名を捨てても、ちゃんと残る「実」が充実し、両社ともお客様が離れないファンづくりの工夫をして欲しいと願っています。

参考

  • 日本生命:三井生命の買収発表 窓口販売の拡充が課題
    //mainichi.jp/select/news/20150912k0000m020150000c.html
  • 生保の決算!「基礎利益」や「保険金支払」から見える保険会社の実情と事業展開
    https://hokensc.jp/news/2015529/
  • M&Aに走る国内生保とEV指標の意味するところ
    https://hokensc.jp/news/2015821/
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この記事を書いた人

一般社団法人円流塾代表理事、STコンサルティング有限会社代表取締役。一橋大学卒業後、保険会社の企画部・主計部を経て1994年独立。CFP®、1 級ファイナンシャルプランニング技能士。約20年間、金融商品は扱わず、約3300件の家計を拝見してきた経験から、お客様の行動の癖や価値観に合わせた「美しいお金との付き合い方」を提供中。TV出演、著書多数。

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