金融庁が不妊治療保険を促す。出生率上昇につながる?

10組に1組とも、5組に1組ともいわれる不妊症に悩むご夫婦。「赤ちゃんが欲しい」と希望する夫婦にとって、高額になりがちな不妊治療の費用負担は切実な問題です。

そんななか、昨年11月、1億総活躍国民会議は出生率を上げる方法の1つとして不妊治療支援の拡充を提言しました。不妊治療保険の拡充時期に合わせて、金融庁が民間の生命保険会社に不妊治療保険の発売を促すと報道されました。

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心身への負担も費用負担も大きい不妊治療

不妊治療は心身への負担も軽くはない上、費用も内容によっては数十万円から数百万円かかる場合もあります。というのは、不妊治療の検査や治療の中には健康保険の対象にならないものも多いのと、複数回治療を受ける人も多いためです。助成対象の治療もありますが、助成があっても費用負担が軽くはないのです。

例えば、体外受精や顕微授精などは「高度不妊治療」と呼ばれ、保険適用外です。そのため、体外受精で1回20万~50万円かかります。経済的にも大きな負担であるのは確かで、全額ではないものの、助成制度は支えになっています。

4月以降の国の支援はこうなる!

厚生労働省の28年4月以降の不妊治療支援事業の内容を見ておきましょう。事業主体はあくまでも地方自治体で、厚生労働省は事業費用を補助する形です。実際の自治体の制度は、下記の内容と異なる場合もあります。

平成28年4月以降は、43歳未満が対象となるため、43歳以上の人が不妊治療を行う場合は助成の対象外で、完全自費になります。

図表 厚生労働省の特定不妊治療支援事業(平成28年4月以降)
対象者 

特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがない、または極めて少ないと医師に診断された法律上の婚姻をしている夫婦が、指定医療機関で特定不妊治療を受けた場合。

※平成28年4月以降は、妻の年齢43歳未満に限定。

対象治療  体外受精と顕微授精(特定不妊治療)
給付内容 1回の治療につき初回30万円、2回目以降15万円まで。
・採卵を伴わない凍結胚移植等は7.5万円まで
平成28年4月以降は、所定の男性不妊治療に関しては15万円上乗せ  
通算助成回数 治療初日に妻40歳未満は通算6回まで。
平成28年4月以降は、40~43歳未満は通算3回。  
所得制限額 730万円(夫婦合算の所得ベース) 
指定医療施設 事業実施主体が医療機関を指定 
事業実施主体 都道府県、指定都市、中核市(厚生労働省は事業費用を補助) 

(※厚生労働省のサイトより編集。一部、担当部署への取材より)

公的支援を補完する民間生保の不妊治療保険

自治体によって助成内容は異なるわけですが、厚生労働省の不妊治療の支援事業だけでは救われない人もいます。

例えば、次のような人は助成を受けることはできません。

  • 法律上の婚姻をしていない夫婦
  • 妻が43歳以上で不妊治療を開始
  • 助成金よりも費用が高く、自己負担が重い
  • 通算助成回数を超えて継続する場合
  • 所得制限を超える世帯所得があって、助成が受けられない夫婦

少子化対策の一環として、制度からはみ出してしまうこうした人たちの経済的サポートをするために期待されているのが、生命保険会社の不妊治療保険です。

不妊治療保険、今春解禁=高額費用を補完―金融庁

《要約》「希望出生率1.8」の実現に向けた緊急対策として、1億総活躍国民会議は不妊治療支援の拡充を提言。金融庁は平成28年4月より民間の不妊治療保険の販売を解禁、公的助成を補完するものとして促進される見込み。

平成25年の金融審議会でも、民間生保会社による不妊治療保険の必要性が議題に上ったものの、「信頼できる統計データがない」などの理由で見送られた経緯がありました。しかし、今回は少子化対策として推進され、導入される見込みです。

「保険会社は一般的なデータと自社オリジナルのデータを組み合わせる形で発生率や費用などを計算し、料率などを決めます。とはいえ、データが十分でない状況はあまり変わっていないため、商品設計で難航している可能性もあります」(生命保険関係者)という声も。

ちなみに、保険会社数社に問い合わせてみたものの、特別な情報は得られませんでした。

公的助成の改正時期に合わせて新商品の発売はあるか?

しかし、金融庁の後押しを受けた形なら、各社の商品部は開発に取り組んでいてもおかしくはありません。認可期間も考えると、4月の発売はなさそうに思われますが、今回のようなケースは金融庁が認可を急ぎ、早めに発売にこぎつけるのでしょうか。

なお、報道されている内容を見る限り、「医療保険につける特約の形で、加入後に不妊症と診断された時に給付金が支払われる」というもののようです。個人的には、特約の形であれば次のいずれかの形になるのではないかと予想します。

  • 女性疾病特約に不妊治療保障もセットされた特約
  • 不妊治療保障だけの特約
  • 損保の治療費用保険のように自己負担分を補填する保険 

どちらかと言えば、「不妊治療保障付き女性疾病特約」や「不妊治療費用保険」のようなものの方が現実的な気がしますが、どうなることでしょう…。

どの保険会社が真っ先に商品を発表するか、という興味も含め、今後の発表などを待ちたいと思います。

少子化改善につながる?

こうした官民の取り組みで、不妊治療の経済的負担が少しでも軽減されれば、不妊治療そのものに二の足を踏んでいたご夫婦も一歩を踏み出しやすくなることでしょう。また、経済的な理由で治療の継続をあきらめていたご夫婦が、もう少し頑張ってみようという気持ちになるかもしれません。

そのため、少子化対策に効果はあると言いたいところですが、そもそも不妊治療は時間がかかるものでもあり、劇的な改善を期待するのは難しいように思います。ほんの少しでも改善につながれば十分なのではないでしょうか。

それ以上に、大変な治療を乗り越えて、子どもを迎えるご夫婦が1組でも増えることによる「ハッピー効果」は大きいと思います。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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