マイナス金利の副作用でまたも値上げ~終身保険の存在価値を考える

日銀の「マイナス金利」導入から8か月が経過し、金融機関の資金運用難が続いています。一部を除き殆どが日本国債で運用されている生命保険においてもその影響は避けられず、マイナス金利導入直後の3月~4月にかけては生保各社の「一時払い終身保険」が販売中止となりました。

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そしてその後もこの動きは収まらず、この秋口にかけても貯蓄性のある学資保険、養老保険、終身保険などの保険料が値上げされたり、一部販売停止に追い込まれる事態となっているのです。

学資保険の一部販売停止 明治安田、マイナス金利が影響(9月30日朝日新聞)

《要約》明治安田生命保険は10月から、一部の学資保険の販売を停止することになった。日銀のマイナス金利政策で国債の金利が低下し保険会社の運用が悪化。高利回りを確保できなくなったためだ。かんぽ生命も一部商品の販売をやめている。他の貯蓄性保険でも同様の販売停止や実質値上げが相次ぐ。マイナス金利の「副作用」で、数少ない高利回りの金融商品がさらに減ることになる。

相次いで値上げされ、姿を消す貯蓄性保険ですが、その中でも個人家計における保障体系の柱のひとつである「終身保険」についてあらためて考えてみたいと思います。

保険の性能の指標は「保険効果」と「収益性」

ここでは話を進めるにあたって、死亡保険金と保険料総額との比率を「保険効果」とし、解約返戻金など生存時に受け取る金額と、それに対して支払った保険料との比率を「収益性」と呼ぶことにします。貯蓄性の高い保険における保険料の値上げは「収益性」の低下を意味しますし、同時に保険としての主たる機能である「保険効果」の低下も意味します

終身保険の保険料が最も安かったのは市場金利が史上最高レベルであった1985年~1991年初頭までで(ご存じバブル経済の後期です)、その後バブル経済は崩壊し、金利はズルズルと下がり続け、終身保険の保険料はドンドン上がり続けたのでした。

例えば今年62歳になる男性が35歳の時(1990年)に某生保で加入した1000万円終身保険の保険料は60歳払いで月額およそ1万1000円でしたが、その同じ保険会社の同じ終身保険が2000年には2万円を超え、今年の秋にはなんと2万9000円になってしまいました。一般的な生活消費材のこの期間の物価推移は1.1から1.2倍程度となっていますから、消費者の感覚ではこの保険料値上げは異常とも感じるでしょう。言うまでもなく、値上げによって終身保険の「保険効果」は低下し、同時に「収益性」も低下してしまいました。

上記の終身保険について1990年→2000年→2016年の推移をみると「保険効果」は、300%→158%→115%と下がりました。(60歳までの保険料総額と死亡保険金額の比率で、1000万円÷870万円(2万9000円×12か月×25年)=約115%)

それでは同時に低下してきた収益性(解約返戻率)はどうかと言えば、60歳時点の解約返戻率で見ると、117%→103%→92%とやはり低下しています。

ここで気づいた方もおられると思いますが「保険効果」の大きな低下に比べると、「収益性」の低下はそれほどでもありません。

金利の低下による収益性低下を銀行預金などの場合で見てみれば、金利が6%→2%→1%と低下すればその収益性は、230%→130%→114%と劇的に下がります。ところが終身保険の「収益性」はそこまでの低下ではありません。

これは預貯金と生命保険がまったく性質の異なる金融商品であるためであり、どちらが優位かという単純な話ではありません。生命保険の保険料は死亡保険金支払いに備えるため、また長期的に制度を維持するために、一定の準備金や経費などが差し引かれた後に実際の運用に回っているため、利率の影響度合いが預貯金とは異なるのです。生命保険の予定利率がある時期に比して80%下がったとしても、積立金の収益性(解約返戻率)の低下は30%程度ですむということになるのです。

保険効果も収益性も下がり続けた終身保険は魅力がないのか

さて、保険料がかなり高くなってしまった終身保険ですが、保険としての魅力はもう無くなってしまったのでしょうか。結論から言いますと、私は決してそうではないと考えています。

保険効果は大きく下がっているが、収益性はそこまでひどく落ちていない、このこともあって終身保険はその使い方次第ではまだまだ魅力を失ってはいないと私は考えています。

終身保険の特長とは

ではここで終身保険の特長、メリットについて再確認してみましょう。

終身保険の特長を端的に言えば、生涯保障を確保できる安心と、積立金による資産としての価値です。終身保険には満期が無く一生涯の保障を確保できますから、葬儀費用などの死亡後の整理資金や相続対策資金などを確実に遺族に渡せます。ちなみに相続対策は高額納税者だけに必要なものではありません。家族があれば何らかの準備は必要であり、終身保険はその主要な対策の一つです。保障が無くなることのない終身保険は、安全確実な保障手段という価値があるのです。

加えて終身保険には積立金(解約返戻金)があるため、将来事情が変わって保険の継続が困難になったときや死亡保障が不要になった場合には、いつでも解約したり減額(一部解約)することで、それに応じて現金が戻ります。その結果、終身保険の加入によって緊急資金や将来の老後資金準備が出来ることになり、また結果的に実質負担の保険料を抑えられるということもできます。そういう機能や性質をもった終身保険は、今も十分にライフプラン上の価値があると思います。

では家計において実際にどんな価値があるのか、ひとつのシミュレーションを紹介します。

シミュレーションの前提条件

  • 最近、終身保険が値上げされた某生保会社の商品を参考にした35歳男性での試算です。
  • より収益性の高い終身保険もありますが、あえて値上げされた商品で試算しています。
  • 医療保障やガンの保障などは一切考えず、死亡・高度障害保障に特化して考えます。
  • 保険料や解約返戻金は端数処理した概算金額であり実際の金額ではありません。

終身保険に加入した人、しなかった人の将来は・・・

A氏は「終身保険の効用を説くFP」の助言により、終身保険1000万円に60歳払い保険料月額2万9000円で加入しました。(60歳までの保険料総額は870万円、保険効果は115%)

B氏は「保険と貯蓄は分けて考えましょう」というFPの助言により、60歳までの定期保険1000万円に月額保険料3500円で加入しました。(60歳までの保険料総額105万円、保険効果は950%)

さて、35年の月日が流れ、子供も独立して還暦を超え定年退職まで5年を切った時点で、両氏は共に生命保険の必要性を再検討し、その結果、自身の最低限のお葬式費用などで100万円を残すようにしたいと考えました。

そこでA氏は保険料の支払いが終わっている終身保険の保険金を100万円に減額しました。すると減額に応じた解約返戻金として720万円が戻ってきました。1,000万円だった終身保険は一部が死亡後の整理資金用として残り、保険料は結果的に自身の老後資金の一部を賄うことになりました。

一方、B氏は60歳で生命保険が終了しているので、新たに100万円の終身保険に70歳払いの保険料7700円で加入しました。B氏がハタと気づいて計算してみると70歳までの保険料合計は92万円となり、保険金受取額100万円とあまり変わらないなあ、とため息をついたのでした。

35歳から60歳までの間は死亡保障1000万円が保障されて、60歳からは最終的な整理資金100万円を各々違う形で残すことにした二人ですが、一体どちらがお得だったのでしょうか?

終身保険を選んだA氏の生涯の実質的保険料収支(支出総額から家計が、保険金を含めて受け取る金額の合計を引いたもの)は870万円-720万-100万=50万円となります。

B氏の保険料支出は105万円+92万円-100万円=97万円ですから、A氏の支出のほうが47万円少なくなっています。また、B氏は健康状態によっては保険加入が困難かもしれず、その場合もA氏のほうが良かったと言えるでしょう。

保険リテラシイの高い皆様がお察しの通り、この話はあまりにも「一面的な視点」からの言及となっています。このケースは二入共に無事に還暦を迎えた設定ですが、もしも働き盛りの大事な時期に死亡したケースでは、収支結果は全く異なります。ただ35歳の日本人男性が60歳まで生きている確率は統計上95%程度なので、この設定が特異なケースというわけではないでしょう。(人口問題研究所発行・人口統計資料2016年版の生命表より推計)

しかしまた、定期保険を選んで安い保険料しか支出しなかったB氏は、その差額を保険以外の何かに振り向けてきたので、その差額の活かし方についてもシミュレーションをしないと公平ではありません。では、その点について少し検証してみましょう。

保険料が安い分、浮いた資金をどう活かすのか

60歳以降の保険料が不要なA氏と、新たに終身保険に加入することにしたB氏の生涯のお金の流れを同条件で比較するのでは話がさらにややこしくなります。老後に継続することにした死亡保障100万円についてはここでは無視して、両者とも生命保険は60歳でお役御免にしたことにして考えましょう。

A氏が終身保険を全額解約すると800万円を手にしますので、これを老後資金と考え、B氏が安い保険料で浮いたお金をコツコツ運用して老後に備えた場合を試算します。

B氏がその差額2万5500円(2万9000円-3500円)を複利運用で毎月積み立てた場合、60歳時にA氏と同じ800万円に到達するには、年間複利で0.35%が必要です。毎月積み立て方式に限らず、銀行など金融機関で「年利0.35%」の商品は現在は見当たらず、比較サイトなどには軒並み「0.01%」などが並んでいます。今の時点では保険料差額の積立でA氏と同額の老後資金を得られる確定の金融商品は無いのです。同等以上の運用が期待できる商品は、株式投資や不動産投資、海外債券や外貨預金など、変動リスクのある金融商品しかありません。

B氏は安い保険料で保障を確保して、差額については無理に運用はせず、まともな利率の運用手段の登場を待ってタンス預金をしておくか、または金融の勉強をして変動商品などの投資を始めるかの選択をすることになるでしょう。あるいはその差額は、なんとなく日常の生活費に消えてゆくだけの運命かもしれません。

結局、終身保険は得なのか?損なのか?それとも・・・??

今の金利状況が当分続くのなら、保険料が高くても終身保険に加入したほうが多少有利であると考えて良いのでしょうか?否、この考え方も実は一面しか見ていないというべきでしょう。

終身保険の解約返戻金は、当分の期間は保険料総額未満で推移しますし、返戻率は70歳になって初めて100%になるというレベルなのです。もしも働き盛りの時期に緊急に資金が必要となった場合には、預貯金で確保しているB氏の選択が良かったということになるでしょう。また、底を這うような低金利の日本ですから、今後の傾向としては金利上昇の可能性を視野に入れるべきでしょう。さらに、元本保証にこだわる傾向の強い日本人ですが、少なくとも資産の一部は「変動商品」を導入すべきだとの考え方は妥当であり、私もそのように思っています。しかし、値上げされた終身保険でも一定の存在意義はあり、少なくともライフプラン作りのひとつの手段として有効な選択肢のひとつであり続けることをお伝えしたいのです。

「保険は掛け捨てに限定して、貯蓄や資金運用は他の手段を選択するべき」という考え方には合理性がありますが、あくまでも色々な考え方の一つです。ライフプラン、金融商品を考えるときは一面的な見方に偏らず複眼的視点で判断をして頂きたいのです。

最低の水準での比較に意味があるか

先日「銀行に黙って預けておくよりはましです」と「近く販売中止になるので最後のチャンスです」というセールストークに乗って、数百万円の一時払い終身保険に加入した方がいました。聞けばその方の加入目的は「保険効果」ではなく「収益性」ということでした。資料を見せてもらいましたがその「収益性」は、年利に直せば0.1%程度なのでした。(最低10年経過が条件です)
確かに0.05%の定期預金金利よりは高い数値ですけれど、これが果たして有利な金融商品と言えるでしょうか?事後相談を受けた私はもちろんやんわりとですが「否定的な意見」を述べました。この選択に対して「それは良かったですね」というFPはあまりいないでしょう。低金利の時代には「固定金利でお金を借りる」のは推奨できますが「固定金利でお金を運用する」ことは推奨できないのがFPの世界では常識です。

預けておいてもほとんど増えない銀行預金、なんとかならないかと思っているところに「少しでも増やせる」や「今が最後のチャンスかも」という売り言葉を耳元で囁かれると、ついつい乗ってしまう人の心理は理解できます。(とかく消費者は「お得」や「期間限定」に弱いのです)しかし、金融商品は気分で買ってよいものではありません。巧みなセールストークを繰り出して商品を売ろうとするのは、彼らの売り上げを確保するのが目的なのであり、決してあなたの資産の健全化が目的ではない、という現実を改めて冷静に認識するべきでしょう。

今の時点では生保各社において「近々に値上げ予定の終身保険」が販売されていて、場合によっては「最後のチャンス」的セールストークが展開されると思います。そのことが当てはまる人もいるでしょうが、そうではない環境の人もいるはずです。あくまでも個々のライフプランの考え方によって、その評価は変わるのだということを肝に銘じて選択をして頂きたいと思います。

終身保険に限らず生命保険は有効な金融商品としての価値がありますが、その本当の価値を決めるのは「売っている人たち」ではなく「買うひとたち」であり、その使い方次第なのです。このあたりが生命保険の分からなさに繋がっているのかも知れません。

参考

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