「漏れた年金」問題を機に社会保障制度への関心と知識を高めよう

年金機構が管理する個人情報の大量漏えいが発覚した「漏れた年金」のニュースを見て、数年前に大騒ぎとなった「消えた年金」を思い出した方も少なくないでしょう。
国の年金記録のずさんな管理が発覚し、年金保険料を払っていなかった政治家の名前が次々と出て、政権交代の一因ともなった「消えた年金」問題。

あれから8年が経過し、その根本解決の目途も立たぬうちにまた表出したのが「漏れた年金」問題なのです。

国の社会保障制度の中核である公的年金は、1961年にスタートした国民年金制度にその後何度も改正が加えられ、いわばツギハギだらけの複雑な制度となっています。 そのことが運営者である国の管理不備や不適正対応を生み、また受益者である国民の理解不足による誤解の原因ともなっていると思われます。

公的年金の問題解決には沢山の課題がありますが、今回は国民(=消費者)の意識という視点から少し考えてみたいと思います。

目次

給与明細の項目を説明できますか?

サラリーマン時代の私は、給与明細を受け取るやいなや「差引支給額」つまり実際の手取り金額だけを確認しては、ため息をつくのが常でした。転職して事業所得者になってからは毎年自分で行う所得税の確定申告を通して、給与から毎月控除されている「社会保険料」の中身についても意識するようになりました。また、仕事であるライフプランアドバイスを通じては、一般の消費者がいかに公的年金や健康保険についての関心が薄いかを痛感することになったのでした。

給与明細に記載されている社会保険料関連は一般に健康保険、厚生年金等、雇用保険ですが、その金額を見れば公的年金の占める割合がいかに大きいかが分かるでしょう。 その際に、ああ結構取られてるんだなあ、と感嘆するだけではなく、その意味を確認しておくことは考えてみれば当然とも思えます。

ライフプランを考えるにあたり、家計簿をつけたり、投資や保険の勉強をするのも良いですが、その前に自分の給与明細の中身を知ることから始めましょう。

国の年金は当てにならない・・は本当か?

日本では少子高齢化がどんどん進行していて公的年金制度はお先マックラ、若い現役世代が高齢者となる頃にはまともな年金など受け取れるはずもない、という人がいますが、それはあまりにも一元的な見方と言えるでしょう。 
公的年金は実は老後の年金だけではなく、現役世代の生活の保障にもなっています。例えばご夫婦とお子さんの3人家族でご主人が死亡した場合には、国民年金からは遺族基礎年金が支給され、厚生年金加入者であれば更に遺族厚生年金が支給されます。

 国民年金法・第37条 
遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の配偶者又は子に支給する。

厚生年金法・第58条 
遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する(以下省略します・筆者)

また、事故や病気のために身体障害者となった場合には、一定の要件のもとで「障害年金」が支給されます。遺族年金は基本的にはお子さんが高校卒業する年齢までの期限のある年金ですが、障害年金と老後に受け取る老齢年金は最長で一生涯受け取れる終身年金です。

以前、お客さんの要望で、このような遺族の保障と障害保障と老後保障を同時に実現できるものを、民間の保険商品で組み立て可能かどうかを検証してみたことがあるのですが、結果は公的年金制度並みの商品構成は不可能ということになりました。

年金の負担額と受取額も歴然の差

また、障害とか死亡などの不測の事態がない場合、つまり老齢年金のみを受け取る場合で検証してみても、公的年金はなかなかのものです。公的年金の保険料負担総額と受け取る年金総額を比較した厚労省の資料によれば、2000年生まれの人の国民年金(基礎年金)で受取額÷負担額=1.5倍という試算になっています。(厚生年金では2.3倍)
ネット上でランキング上位である某生命保険会社の個人年金保険で試算してみたところ、受取額÷負担額の高いものであっても1.2倍がせいぜいです。現在の超低金利時代を反映して、確定型の貯蓄性保険や年金商品はだいたいこんな感じなのです。1.5倍とか2倍を実現できる可能性のある運用手段は元本割れリスクもある「変動型」「投資型」の商品しかありません。

ただし、民間の年金保険は個々人の契約で受け取る金額が保証されているのに対し、公的年金は国と個人の個別契約ではなく、1.5倍などの受取率が保証されている訳でもありません。
どちらが有利なのかと単純比較すべきものではありませんが、「国の年金は当てにならない」と言い切ることはやはり乱暴な言い方であるというわけです。

保険見直しも社会保障の理解が先決

保険見直しの相談で確認すべき項目の筆頭に挙げられるものは、家族構成、家計収支の現状、そして現在の資産や保障の内容ですが、その保障の中身として公的年金(遺族年金など)を把握している人は決して多くないように思います。

家計保障の合理化のためには、既に確保している保障内容、つまり公的年金の家計保障機能や健康保険の給付内容を把握して、そのうえで不足分について民間の保険商品の導入を検討するのが基本です。保険相談をする際に、相談相手がこれら社会保障制度の概要をきちんと説明してくれる人かどうかは、その人の誠実さや知識レベルの判定基準とも言えそうです。

社会保障などの国の制度というのものは「お上がやってくれている」のではなく「国民みんなが協力し合ってやってゆく」ものです。最近の安全保障関連の法令審議などを見ていて、多くの国民が国の動き、政治の流れに対して関心を持つことの重要性に気付いたのではないでしょうか。

政治や行政は、実は庶民の生活に密接に関係しているものなのであって、公的年金問題は一つの象徴的な分野です。
年金制度の複雑さの是正、世代間格差の縮小、年金資産運用の適正化、社会保障制度全体のバランスの問題、財政公正化、等々年金を巡る問題は山積しています。
我々の生活に大きく影響するこうした公的年金の諸問題を地道に解決し、少しでも良い制度を維持してゆくには、我々庶民が少なくとも基本的な仕組みを理解し、政策の動向について、自分たちの問題として関心を持つことがとても大切だと思うのです。

公的年金と個人年金の関係性や年金と運用との関係などについては、次の機会に触れてみたいと思います。

参考

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この記事を書いた人

博多生まれの東京育ち。国立市在住30年。老舗機械商社営業マンから突然!脱サラ。当時外資系だった生命保険会社の営業マンとなり、独立自営へのステップとして成果報酬の保険営業を9年間経験。その後ファイナンシャルプランナー(FP)として独立し、現在は保険相談を中心に独立系FP事務所&総合保険代理店を経営している。
本当に必要で本当に役に立つ保障システムの構築と、資産の安定化の実現をサポート。誠実と向上心をモットーに顧客の利益最大化を目指す。

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