「幼児教育・保育の無償化」スタートから1カ月半。明らかになった課題とは?

2019年10月から消費増税と同時にスタートした「幼児教育・保育の無償化」。消費増税によって見込まれる税収4.6兆円の中から8,000億円を活用して取り組まれています。スタートして1カ月半が過ぎたところですが、明らかになった問題はどのような点か、報道などからチェックしてみましょう。

「幼児教育・保育の無償化」の概要

安倍晋三首相は10月4日の所信表明演説で、幼保無償化について「70年ぶりの大改革だ」と胸を張った。衛藤晟一少子化担当相は「子育て世代に大胆に政策資源を投入する。少子化対策の大きなステップだ」と強調する。

政府が「全世代型社会保障の第一歩」と位置づけるのが、「幼児教育・保育の無償化」です。

「幼児教育・保育の無償化」は、すべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児が対象で、認可保育園や認定こども園などは原則無料になります。認可幼稚園でも一部は月2万5700円まで、認可外保育園(自治体が保育の必要性を認めた児童のみ)は3~5歳児の場合月3万7000円まで、0~2歳は月4万2000円までの補助が出ます。

表1 「幼児教育・保育の無償化」の概要
年齢 0~2歳 3~5歳 (満3歳になった後の4月1日から小学校入学前まで)
対象 住民税非課税世帯 全員
認可 認可保育園 無料(延長保育は有料) 無料(延長保育は有料)
認定こども園
新制度に移行した幼稚園 (なし)
幼稚園(未移行) 月2万5,700円まで補助(預かり保育は月1万1300円まで)
認可外 認証保育園 月4万2000円まで補助* 月3万7000円まで補助*
ベビーホテル・ベビーシッターなど

*自治体が保育の必要性を認めた場合

「無償化」なのに「無料」じゃない?

周囲の反応や報道などを見ていて、まず飛び出したのが、「幼児教育無償化なのに無料じゃないの?」という保護者の声です。こうした声を上げているのは、幼稚園や認可外の保育園などに通わせている保護者のようです。

実は、幼稚園でも「子ども・子育て支援新制度」に移行した幼稚園は原則無料になるものの、移行できていない幼稚園への補助は月2万5700円にとどまります。認可外保育園の場合は、3~5歳なら月2万6600円まで、0~2歳で住民税非課税世帯でも月4万2000円までです。

テレビでインタビューを受けた女性は、無償化の制度はありがたいものの、幼稚園代が無料になると期待していたのにそうではなかったことに触れ、「それなら無償化という言葉を使わないでほしかった」と肩を落としていました。

推測になりますが、通園送迎費、食材料費、行事費などはこれまでどおり保護者の負担になっているのを知らずにいたのではないでしょうか。あるいは、同じ幼稚園でも、原則無料のところと月2万5700円までのところがあり、後者に該当したのかもしれません。施設の条件が整って新制度に移行できれば無料になることを確認しておきましょう(表1)。

便乗値上げが多発!?

保護者から上がった不満の声は、便乗値上げの事例についてです。無償化に伴い、利用料の値上げの通知が届いたという保護者も多かったようです。

名古屋市の30代の女性は9月上旬、子どもが通う私立幼稚園から文書を受け取った。10月以降、毎月の授業料をこれまでの「2万3700円(給食費込み)」から、「授業料2万5700円、給食費4500円」にするという内容だった。

値上げ後の授業料はちょうど無料になる上限額に設定され、給食費は自己負担として支払う形になりました。トータルで見ると6500円の値上げです。こうした値上げが全国で相次ぎ、大きな話題になりました。

実は、認可保育園や認定こども園などの利用料は自治体が決めるのですが、前述の新制度に移行していない幼稚園や認可外保育園では、利用料を自由に設定できるため、こうした問題が浮上したようです。

取材に答えていた保育園経営者の話を聞くと、そもそも給食費は無償化の対象外なので、切り分けて請求する必要があるのだと説明していました。無償化の上限まで授業料を引き上げるのは「よりよい運営のため」で、保育スタッフを増やす資金やスタッフの給与アップに使うとのことでした。

保育環境の充実につながるのであれば便乗とは言えないかもしれません。それも値上げ分が実際にどのように使われるのか次第です。国も実態調査(と指導)を始めたようですので、調査結果の公表を待ちましょう。

やはり浮上した待機児童問題

「幼児教育・保育の無償化」の導入が決まる前から、最も指摘されてきたのが待機児童の問題です。スタート後もやはり大きな課題として認識されています。

子育て層は「まず待機児童の解消を」と訴える。待機児童は減少傾向ながら、2019年4月時点で約1.6万人と高水準にある。希望施設に入れず保護者が働くのを諦めるなどした「潜在的な待機児童」は約7.3万人で、2015年の公表以来最も多い。

政府は2019年度末までの待機児童解消を掲げ、整備に取り組んできました。2018年10月の待機児童数は約4.7万人だったので、2019年4月時点で待機児童数が大きく減少したのがわかります。しかし、無償化によって「働きたい」という需要が掘り起こされることも考えられ、待機児童の解消は遠い道のりです。

何より、待機児童が解消できない原因となっているのが保育士不足です。資格を持っていても保育士として働くのをやめてしまう人も多く、資格があるのに働いていない保育士は約80万人に上ります。保育士不足から保育園を維持できなくなる園も少なくないようです。

保育士不足の原因は、長時間労働や休みの取りにくさ、過酷な仕事なのに賃金が低いからだとされています。政府も賃金を上げるなど、再雇用を促す努力をしているものの、なかなか大きな改善にはつながっていないようです。

日本で保育士の労働が過酷で安くなる原因は、国が設定している人員配置の基準が低いためだと言われています。子どもの人数に対して配置される保育士の人数は子どもの年齢ごとに決まっているのですが、それがそもそも先進国で最低レベルなのだそうです。

現場では、自主的に基準よりも多く保育士を雇っている施設もあるようです。しかし、国からの補助は最低基準に基づいて支払われるため、どうしても保育士に支払われる給与が下がってしまう。こうした影響もあって、保育士の平均給与は全産業の平均より9万円も低いそうです。待機児童解消のためには、配置人数の見直しをすることが急務です。

心配な保育の質の低下。劣悪な施設の排除はどうする?

今回の「幼児教育・保育の無償化」で個人的にも不安に思っているのが、保育の「質」の低下です。スタート前より指摘されていました。報道で乳幼児を虐待する園の話などが出ると、「うちの子は大丈夫かしら」と不安になるママ・パパも多いことでしょう。

なぜことさら園の「質」の話が出るかというと、「幼児教育・保育の無償化」スタートから5年間は、認可外施設もすべて補助の対象となるためです。条件が整わず、認可外になっている施設に対しても補助が出るので、前述の国の人員配置の最低基準を下回るような施設もあるわけです。保育士の配置基準を満たしていないのに、費用負担が下がったことで利用者が増えれば、しわ寄せは子どもたちに行きかねません。

もちろん、認可外でもよい施設はありますが、事故が多いのはやはり認可外施設だそうです。5年後までに新制度に移行できるよう基準を満たしていくことが求められていますが、それまでの間に事故が起きないことを祈るばかりです。施設に監視カメラを付けていつでも親が子どもの様子を見られるようにするだけでも違うと思います。

幼児教育・保育の無償化を行っている他の国では、スタート時点で施設の「質」を守るよう取り組んでいるとのこと。日本も、悲惨な事故が起きる前に、施設の監査や指導、あるいは排除する仕組みを設け、親が安心して預けられるようにしてほしいものです。

参考

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