最近、国の公的介護保険が改正されたようで、民間の介護保険を検討しています。
加入のきっかけは、介護の場合、一時的な入院・手術で住む病気・怪我と比べて長期化する可能性が高く、その場合家計が苦しくなるだろうと思っているからです。
検討している保険の内容は、「公的介護保険制度の要介護2以上の認定を受けた場合又は、65歳未満で、「当社所定の要介護状態が180日継続したとき」場合で、その状態が継続中は終身で年金受け取れます。」というものです。
公的介護保険だけでも保障は充実しているという声もありますが、民間の介護保険は必要でしょうか?また、使える商品はありますでしょうか?選び方なども教えていただければうれしいです。
(42歳 男性)
CFP?、FP技能士1級、介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士、認知症ケア専門士、福祉住環境コーディネーター2級木下 麻里
超高齢社会に突入し、年金や医療・介護の福祉各分野で給付抑制が始まっています。公的介護保険では来年から高額所得者が2割負担になるなど、2000年の制度開始以来の大きな変更となっています。
質問者様のご指摘の通り、介護は入院より長期に及ぶ場合が多く、経済的な負担が重くなる傾向にあります。公的な終のすみかである特別養護老人ホームの平均的な入居年数はおよそ4年です。
しかし報道されているようにその入居は簡単ではありません。その期間有料老人ホームを利用した場合は、1人25万円は月々最低でもかかり、年金だけで賄うことはできない人がほとんどです。加えて実際に介護の手間がかかり始めるのは要介護2以上ですので、それ以上の期間をどうするか考えておく必要があるのです。
こんな状況ですから、「介護が必要になったら……」と不安な気持ちを持たれるのは当然です。民間の介護保険に興味を持たれるお気持ちもよくわかります。
また、検討中の保険商品は、割合緩い支払要件(要介護2以上)になっていて、終身で年金が支払われるし、契約したらすごく安心な気がしますね。
でも待って下さい。
民間介護保険は加入者に保険事故(介護状態)がおこる確率がとても高いため、保険料は割高で支払保険料が給付をしたまわる元本割れをおこる確率が高い商品です。
慎重に検討しましょう。結論からすると、ほとんどの人は家計のことを心配して民間介護保険に加入するメリットはありません。
よく保険のご案内用パンフレットなどには、家で介護をするとひと月の費用目安と住宅改修例が費用とともに記載されています。しかしそれはあくまで平均的な数字ですし、すべてのサービスや工事が必要になるわけではありません。
介護が必要になったらその時のご自身の状態やお考え、家族などの協力体制、家の環境を勘案して個別に工夫すればいいのです。ケアマネージャーをはじめとする専門職とよく相談してください。国の介護保険制度は充実しているとはいえませんが、それでも工夫して利用することで、役に立ちます。
例えば、介護が必要になる原因トップの脳血管障害になったとしても、病院から自宅に帰れる状況であれば、手すりなどの設置工事でまず支給限度額の20万円を超えることはありません。ご本人や家族と相談してリビングにベッドを置いたり、家具の配置を工夫することもあります。
デイケアで入浴をするケアプランにすれば、リハビリもできて、安い費用で入浴もできます。週に2回の利用と介護ベッド一式であれば、月に昼食込で2万円程度。意欲があれば時間がかかってもできることは増え、介護負担は減ります。
また認知症になっても、1人で生活できている人もたくさんいます。私のご利用者のAさんは私の名前や役割はわかりませんが、一日おきにデイサービスにいき、それ以外はヘルパーさんが訪問して、薬の飲み忘れもなく、いつも笑顔で暮らしています。
しかし、自分の場合にどうなるかは予測つきません。できれば資金面での工面をしておきたいもの。
でも保険を検討する前に、ご自身の現在の年齢から95歳までのライフプランを考えましょう。どんな生活をしてどのような最期を迎えたいかぜひ考えてみてください。
何歳まで働きますか? 年金はいつからもらえますか?
大きくお金のかかる・入る予定はありますか?それはいくら位ですか?
今の家はあと何年住みますか?修繕費用や転居の予定はどうですか?
どこで、どのような介護を受けたいですか?
相続や葬儀のことはどのように考えていますか?
そして老後の生活費の収支予想と資産状況を確認してください。現状のキャッシュフローと資産で、余裕があるが、それでも介護が心配な人のみ、高額なお守りとして民間介護保険を考えても良いと考えます。
ほとんどの方は介護が必要になるまでは継続的な赤字をできるだけ減らし、住まい方も含めて、メリハリをつけた生活のダウンサイジングにつとめることが必要です。無理のない範囲で働けるだけ働くということも考えましょう。
また老後資金を増やすにはローンを早く終わらせ、確定拠出型年金やNISAを利用して信託報酬が安い積立投信などで地道に金融資産を増やすことをお勧めします。自宅不動産がある方は、賃貸に出すことはできませんか? リバースモゲージ関連の動向にも注目です。
介護状態になって就業収入が減ることが心配なら、介護を原因とした支払がある収入保障保険に入っておくのは検討してもよいと思います。脳梗塞や若年性アルツハイマー型認知症などで50代から就労できなくなる方の経済的負担は大きいからです。支払事由については商品ごとに異なるので注意してご契約下さい。
そして老後準備としてお金以外の財産を増やすことも大切です。リタイアメント後でも増やせる財産は「健康」と「人とのつながり」です。
まずは規則正しい生活と適度な運動でご自身の健康寿命を延ばしましょう。健康診断や歯科検診もお忘れなく。女性は骨密度にも気を付けて下さい。生活に楽しみを見つけて「笑顔」と「感謝」ですごせるように心の健康を図ることも大切です。
そして、人とのつながりを豊かにしましょう。先にご紹介したAさん、実は昔は自治会の役員などをして友人が多いのです。最近も葬儀屋と不要な契約をしてしまったことをいち早く発見。家族に連絡して事なきを得ました。
いままで就労で地域交流が少ない方は、少しずつでも地域のボランティア活動やサークルなどに参加してみてはどうでしょうか?
また、ぜひ先ほどの95歳までのライフプランをたたき台に、配偶者はもちろん、お子さんとも胸襟を開いて話し合う機会を持ちましょう。実際の介護の世話をしなくても、お子さんたちには最終的に手続きなどで世話になるのです。どの程度の協力ができるのか、状況も変わりますので時々話し合って下さい。
今日は介護に真摯に向き合ってくださってありがとうございます。
介護の問題はお金だけで解決できません。介護が必要な人への社会全体のやさしいまなざしが増えることで、あなたの介護への不安は減ります。一緒にこれからも介護に向き合っていきましょう。
神奈川県横須賀市出身。バブル期に都市銀行に入行。子育て専業主婦中にFP資格を取得し、2003年より介護業界で就労。現在ケアマネージャーとして介護が必要な人やその家族を支援する一方、独立系女性FPグループ「なでしこFPサロン」パートナーとして、介護やライフプランに関する講演や執筆、個別相談などに活躍中。
介護現場の経験を踏まえた「介護とお金」の視点で、顧客の「その人らしい」ライフプラン実現をサポートしている。
質問者様の状況を推察すれば、介護保険は必要であるといえる。
介護サービスには利用者負担が軽減される制度がいくつかあり、生活に影響することは少ない。
介護費用が必要となるときまでに自分で資金を準備することが重要。
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